母になる

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なんとかご飯を食べさせて服を着替えさせ、家を飛び出した。 外は初夏の日差しが燦々と降り注いでおり、少し歩くと汗ばむくらいだ。 保育園に向かう道の途中で、同じクラスの親子が前を歩いているのに気づく。 0歳児クラスでも月齢に差があるため、まだはいはいすらできない子もいれば、既に歩き始める子もいる。 前を歩く瑠美ちゃんは4月で1歳になったらしく、歩きたい盛りなのかいつもお母さんと手を繋いでよちよちと歩いて登園している。 おはようございます、と後ろから声をかけると二人揃って振り向いた。だぁ、と瑠美ちゃんが声を上げて笑うのでおはよう、と瑠美ちゃんにも声をかける。 「おはようございます、今日はいい天気ですね」とクマ一つない顔で、瑠美ちゃんのお母さんは微笑み返す。パリッとしたスーツを着て、髪型もきっちりとお団子に整えられている。瑠美ちゃんと繋いだ手にはキラキラしたネイルが施されており、一体どこにネイルを塗る時間があるんだろうかとぼんやり考える。 「ほんといい天気ですね、暑いくらい…」と返事をしながら自分の格好を反芻する。 伸び切ったトレーナーにGパン、寝癖を直すために梳かしただけのショートの髪、ファンデーションぐらいしかメイクしていない自分と彼女では並んで歩くのが恥ずかしくなる。 どうしてみんなそんなにちゃんとできるんだろう。どうして私は他のお母さん達みたいにちゃんとできないんだろう。 寝不足で荒れた肌とクマを見られたくないな、と俯くと、抱っこ紐の中の悠と目が合った。 直前まで泣いていたせいで赤くなった頬をふっくらさせ、彼はへらっと笑いかける。 そうね、せめて笑ってないとね。と無理矢理口角を上げてみせた。
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