母になる

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家に着いてからも休む暇はない。 抱っこ紐から悠を下ろし、ベビーサークルに入れて遊ばせつつ炊飯器にご飯をセットする。 できる限り離乳食も手作りにしようとは思っているが、それだと下処理が楽な野菜ばかりになってしまう。悠の体重があまり増えないのはお肉を食べないせいかもしれないな…と考える。 冷凍しておいたお粥を温め、ほうれん草の微塵切りを入れ、牛乳と混ぜて簡単なミルク粥を作る。 ベビーサークルの中で遊んでいた悠を抱き上げて椅子に座らせると、まだ遊んでいたかったらしく泣き始めた。 「はいはいご飯だからね、ご飯食べたら遊ぼうね」と声をかけつつお粥を口へ運ぶ。 渋々飲み込むが気に入らなかったらしく、また声をあげて泣く。 うわあぁん、ぎゃぁぁぁぁぁん… どうして子供の泣き声ってこんなに脳に響くんだろう。疲れてる時は特に。 「悠、ご飯食べて」と口にスプーンを突っ込む。 いやぁぁぁぁ!!と泣き叫んだ悠が暴れ、彼の足が私の手にあたり持っていたお粥の器がひっくり返った。 べちょ、と音を立てて私の足の上にお粥がこぼれる。 ぷつん、と何かがそこで切れた。 「どうしてちゃんと食べないの!!ママが作ったのに!!」と怒鳴る。止められない。 悠は私の声にびっくりしたのか、一瞬キョトンとした顔をした後、また顔を真っ赤にして泣き始めた。 泣きたいのはこっちだよ。そう思った瞬間にはもう涙が溢れてきていた。 うわぁぁぁぁん…と二人分の泣き声が部屋に響く。古いアパートだし苦情が来るかもしれない。虐待だと思われるかもしれない。泣き止ませないと。悠は悪くないのに。ごめんなさい、ごめんなさい… ぼろぼろ溢れる涙を拭いつつ、床に落ちたお粥をティッシュで拭き取り、シンクに器を置いたところで疲れ果ててそのまま座り込んだ。 悠はまだ泣いている。ピーッピーッ、と音を立てて炊飯器がご飯が炊けたことを知らせる。私は立てないまま。 何十分もかけてご飯を済ませてお風呂に入れ、ようやく寝室に向かう頃にはもう22時を回っていた。 しかしまだ遊び足りないのか、悠は部屋中はいはいで動き回り、手当たり次第に物を掴んでは口に入れる。一瞬たりとも目が離せない。 エアコンのリモコンを口に入れようとしたところで「だめよ」と取り上げるとまた泣き始めた。 なんでこの子はこんなに泣くんだろう。他の子はここまで泣かないのに。 最近は夜が来るのが怖い。また寝るのに何時間もかかるのか。また2時間おきに起こされるのか。子供が憎いと思ったことはないが、疲れている時は泣き声を聞きたくなかった。 案の定電気を消してもあちこち動き回るので、こちらの眠気の方が先に来てしまう。横になってうとうとしていると、悠はきゃっきゃと声をあげて私の顔をぺたぺたと触る。 「もういい加減にして…」と無理矢理彼を添い寝させて抱き締めると、身動きが取れないことが不満なのかまた激しく泣き始めた。 泣き止ませなきゃ。近所迷惑だし…と思いつつとろとろと眠りに落ちていく。 はっと目が覚めた時には、泣き疲れた悠が隣で寝ていた。 可愛い可愛い悠。 汗で柔らかな髪が顔に張り付いているのをそっと撫でながら、ごめんねダメなお母さんで、と呟いた。 ***
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