ミステリーの書き方④

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ミステリーの書き方④

「●」は『ミステリーの書き方』からの抜き書き。 「※」は僕の書き込みです。 「・」はこちらで入れています。  段落はWeb上の読みやすさを考慮して、適宜入れています。 ※さてここで、比喩が上手いと言われる「村上春樹」の引用でちょっと脱線していきます。  世界中で評価を受け(五十カ国語の言語に翻訳されている)、日本でも著作が出るたびに騒がれ、熱狂的なファン「ハルキスト」という言葉が存在する村上春樹。 「春樹チルドレン」と呼ばれる、村上春樹に影響を受けた作家は多くて、有名どころでは伊坂幸太郎や本多孝好などがそうだと言われています。  ただ「春樹チルドレン」は一部の評論家やファンがそう言っているだけで、該当しない作家も多いという意見もあります。  現に伊坂幸太郎(いさか・こうたろう)は、大学の生協で見つけた大江健三郎にハマり、デビューした後に本多孝好『MISSING』を読んで、自分にはとても書けないと衝撃を受けたと語っています。  ここでふたりの名前が出てくるというのは、どこか共通するものを持っているからかもしれません。  そのインタビューには、村上春樹の「む」の字も出てこなかったと記憶しています。解説も書いているので、佐藤正午を敬愛していることは確かなようです。  村上春樹がキライだとういう声は、読書家はもちろん、作家や評論家の中にも多い。強すぎるが故のアンチですね。  そのあたりが、ここだけ読めばわかります。さて、あなたは好きか嫌いか、ハルキ劇場が開幕します。 (見やすいように改行を入れています) 7f9013a6-2c7f-4864-9022-b7e1c2c95793 〈しかし直子の話は長くはつづかなかった。ふと気がついたとき、直子の話は既に終わっていた。言葉のきれはしが、もぎとられたような格好で空中に浮かんでいた。  正確に言えば彼女の話は終わったわけではなかった。どこかでふっと消えてしまったのだ。あるいはそれを損なったのは僕かもしれなかった。  僕が言ったことがやっと彼女の耳に届き、時間をかけて理解され、そのせいで彼女をしゃべらせつづけていたエネルギーのようなものが損なわれてしまったのかもしれない。  直子は唇をかすかに開いたまま、僕の目をぼんやりと見ていた。彼女は作動している途中で電源を抜かれてしまった機械みたいに見えた。彼女の目はまるで不透明な薄膜をかぶせられているようにかすんでいた。 「邪魔するつもりはなかったんだよ。」と僕は言った。「ただ時間がもう遅いし、それに……」  彼女の目から涙がこぼれて頬をつたい、大きな音をたててレコード・ジャケットの上に落ちた。最初の涙がこぼれてしまうと、あとはもうとめどがなかった。彼女は両手を床について前かがみになり、まるで吐く ような格好で泣いた。  僕は誰かがそんなに激しく泣いたのを見たのははじめてだった。僕はそっと手をのばして彼女の肩に触れた。肩はぶるぶると小刻みに震えていた。  それから僕は殆ど無意識に彼女の体を抱き寄せた。彼女は僕の腕の中でぶるぶると震えながら声を出さずに泣いた。涙と熱い息のせいで、僕のシャツは湿り、そしてぐっしょりと濡れた。直子の十本の指がまるで何かを──かつてそこにあった大切な何かを──探し求めるように僕の背中の上を彷徨っていた。  僕は左手で直子の体を支え、右手でそのまっすぐなやわらかい髪を撫でた。僕は長いあいだそのままの姿勢で直子が泣きやむのを待った。しかし彼女は泣きやまなかった。〉  村上春樹『ノルウェイの森』 ※いかがでしたか。これが村上春樹です。文中にある「と僕は言った」を使う人は、すでに、隠れ「春樹チルドレン」かもしれません ( *´艸`)  アカデミー賞国際長編映画賞に輝いた「ドライブ・マイ・カー」は村上春樹の短編小説です。  話はさらに脱線していきます。 754d7988-4295-4ac7-9bff-130427ba3ceb 〈国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。  向側の座席から娘が立って来て、島村の前のガラス窓を落した。雪の冷気が流れこんだ。娘は窓いっぱいに乗り出して、遠くへ叫ぶように、 「駅長さあん、駅長さあん」  明りをさげてゆっくり雪を踏んで来た男は、襟巻で鼻の上まで包み、耳に帽子の毛皮を垂れていた。  もうそんな寒さかと島村は外を眺めると、鉄道の官舎らしいバラックが山裾に寒々と散らばっているだけで、雪の色はそこまで行かぬうちに闇に呑まれていた。〉  川端康成『雪国』 ※日本人ならわかります。日本人にしかわからないというべきでしょうか。 「え、国境(こっきょう)? 海に浮かんでる日本の話でしょ? どこの国と接してるの? で、誰がトンネルを抜けたの? 主語は? なんで夜の底が白いの? 底ってなに」  正確に翻訳することは不可能と思われる文章です。むりをすれば風情もへったくれもない作品になるでしょう。  それに引き換え、主語がどんどん出てきて、地の文にも台詞にも、独自のこじゃれた比喩を入れてくる村上春樹は翻訳しやすく、かつ伝わりやすいのでしょう。  ちなみに僕は、村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を途中で諦めました (;´∀`) b2d81920-c001-4c51-b6bb-1f877c16deef 【閑話休題】←むだ話を打ち切って、話を本題に戻すときに使うことば。  最近見かけませんが「それはさておき」という意味です。ということで話を小池真理子先生に戻します。 【文体の獲得】 ●毎日エクササイズをするように、好きな作家の文章を書き写すのがいいという人もいますが、わたしは思っています。  自分の文体を作ろうとする場合、確かにテクニックで半分はクリアできますが、それ以上は難しい。それは書き手自身の「身体感覚」が抜けているからです。 ●例えば悲惨な現場に行き会(原文ママ)わせた自分を表現する場合、で紡いでいかなければなりません。ではそれが、本当に自分の言葉かどうかを見極めるためにはどうしたらいいか。 ●書き手自身の身体感覚が必要になってくるのです。していれば自然と。そういう訓練をしていけば比喩もはまるようになるのではないでしょうか。 ●読んだ時に、そのシーンをが、レベルの高い比喩であると考えています。 ●くり返しになりますが、比喩をうまく溶け込ませるにはしかありません。  そのためにはすることが必要です。その身体感覚を獲得するためにはこと、ただただそれだけではないでしょうか。  ─To Be Continued─
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