ミステリーの書き方③

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ミステリーの書き方③

「●」は『ミステリーの書き方』からの抜き書き。 「※」は僕の書き込みです。 「・」はこちらで入れています。  段落はWeb上の読みやすさを考慮して、適宜入れています。  ─小池真理子─ 1989年『妻の女友達』で第42回日本推理作家協会賞(短編および連作短編集部門)受賞 ○1995年 『恋』で第114回直木賞受賞 ○1998年 『欲望』で第5回島清恋愛文学賞受賞 ○2006年 『虹の彼方』で第19回柴田錬三郎賞受賞 ○2012年 『無花果の森』で第62回芸術選奨文部科学大臣賞(文学部門)受賞 ○2013年 『沈黙のひと』で第47回吉川英治文学賞受賞 ○2022年 第25回日本ミステリー文学大賞受賞 【比喩と文体】 ●比喩は、》を使用すれば、劇的な効果を出せると思います。 ●比喩は劇薬に喩えられるくらいですから、使です。ただ、比喩を上手に使おうとした場合、比喩そのものを単独で取りだして考えるよりも、まずは文章そのもの、ひいてはようにした方がいいと思います。 ●わたしは比喩も含めて文体だと考えています。比喩だけが独立して浮いて見えるのではなく、ことが必要なのです。 ※個人的にはこの意見が一番しっくりきます。文章に溶け込んだ的確な比喩は、使ったぞと気づかせるまえに、情景なりをまざまざと読者に見せる。そこで、なんてすごい比喩なんだと読み返させる。それがベストだと思います。 〈欲望のおもむくまま、互いが等分に求め合ったのか、奇妙な興奮状態にあった吾郎に烈しく犯され続けていただけなのか、どちらだったのかはわからない。気がつくと窓の外が少し白み始めていて、わたしと吾郎はモルフォ蝶のいる部屋の真ん中で、素っ裸のまま、それぞれ別の方を向き、なって、いぎたなく眠りこけていた。〉  小池真理子『望みは何と訊かれたら』 88bcb7b1-0e62-418b-9520-d5367598bd82 ●比喩といえば三島由紀夫ですね。三島はわたしがいちばん影響を受けた作家であり、大好きな作家です。三島ほど明晰に情景や心理を描写できる作家はいません。 ●三島が使う比喩にしても、三島のからこそ優れた効果を出しているのです。文章全体が醸し出すオーラのようなものが伝わってくる。 ●三島の作品からひとつ例を挙げれば『豊饒の海・第四巻 天人五衰』の冒頭でしょう。  朝から昼下がりまで半日にわたる海について、もうこれ以上は書きようがないだろうと思うくらい執拗な描写が続くのです。 〈漁船が二杯出てゆき、沖には貨物船が一(せき)動いている。風が大分強くなった。西から入ってくる一(そう)の漁船が、エンジンの音を儀式の合図か何かのように近づけてくる。それというのも、そんなに小さな(いや)しい船であるのに、船の進行には車輪もなく足もないから、(すそ)を引いた衣装(いしょう)膝行(しっこう)して来るように高雅に見えるのだ。  午後三時。鰯雲は薄れ、南の空に白い雉鳩(きじばと)の尾羽根のような形にひろがった雲が、海に深い投影を落としている。  海、名のないもの、地中海であれ、日本海であれ、目前の駿河(するが)湾であれ、海としか名付けようのないもので辛うじて統括されながら、決してその名に服しない、この無名の、この豊かな、絶対の無政府主義(アナーキー)。  日が曇るにつれて、海は突然不機嫌に瞑想(めいそう)的になり、鶯色(うぐいすいろ)のこまかい稜角に充たされる。薔薇(ばら)のえだのように(とげ)だらけの波の(いばら)でいっぱいになる。その棘自体にも、なめらかな生成の跡があって、海の茨は平滑に見えるのだ。  午後三時十分。今どこにも船影がない。  ふしぎなことだ。これだけ広大な空間が、ただほったらかしにされているのだ。〉  ─三島由紀夫─ 『豊饒の海・第四巻 天人五衰』 5edde5e1-0239-43ab-b2a9-a47449d6f246 ※やめてくれー! 引用の文字がちっちゃすぎてタイプするのが大変だ ( ; ›ω‹ ) ●でもその三島にしても、これはいかがなものかという比喩もあります。喩えるを持ってくるというのはですけど、 「彼女の目は洞爺湖の水のようだった」とかいうようなものは、どうかと思います。 ●バーバラ・ヴァイン名義の作品は文章が濃密で純文学といって差し支えありません。日本人が好むような柔らかい比喩ではなく、堅苦しかったり観念的だったりする比喩ですね。 〈彼女はあのときから恐れていたのだろうか? 寄り集う慈悲の女神たちは、カラスのごとく暗くなりかけた芝生の木々に止まったり、彼女が嫌う蛾のごとく窓ガラスを叩いていたのだろうか?〉  ─バーバラ・ヴァイン『死との抱擁』─ 5c768d9e-1090-4c49-8958-22475074ac81 ※花村萬月先生の〈貴方はなぜ『?』をつけるのですか。これは無意味な植民地根性ではないのですか〉の意味が分かりました。翻訳本にはやはり『?』が多いんですね。 ●比喩を多用するといえば、アメリカのハードボイルド作家のレイモンド・チャンドラーや、彼から強い影響を受けている村上春樹がいます。  新人賞の応募原稿とかで、このってびっくりするほどおおいのですが。雰囲気が好きだからというだけでやっても、結局は猿まねで終わってしまいます。  小池真理子編続きます。  ─To Be Continued─
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