Web小説の改行

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Web小説の改行

 いつもの昼のまどろみの中で、友寄明青(ともよせ あきお)は確かにその音を聞いた。  カタン、と郵便受けのふたが開く。パサリ、と封筒が郵便受けの底に落ちる音。  続いて、シャララ、これはカフーの鎖の首輪につけた貝殻が触れ合う音だ。首を伸ばして、石垣の向こうの様子をうかがっているに違いない。  誰かが庭にやって来ると、縁側の下に寝そべっている黒いラブラドール犬のカフーは、決まって首を持ち上げて珊瑚の石垣の向こう側を眺める。吠えはしないが、明青が縁側に続く仏間にいる時は、後ろを向いていても首輪の鳴る音で来客が分かる。  郵便配達だろう。バイクの音が遠ざかる。午前のフェリーでやってくる郵便は、夕方明青の家に配達されるのだ。  青空をさえぎって直線に延びている(ひさし)が、縁側に明るい陰を作っていて涼しい。明青は縁側の奥、仏壇が堂々と鎮座する座敷で大の字に寝そべっていた。  六月になると気温がぐんぐんと上がり、いよいよ夏がやって来る。空も海もその青さを冴えざえと増すこの月から九月頃までは、昼寝がもっとも心地よい季節だ。『中休み(ナカユクイ)』と言って、明青の店は二時から四時までを開店休業にしている。繁忙期には観光客もひっきりなしにやっては来るが、死んだ祖母から店を引き継いで十三年、このルールを変えようと思ったことは一度もない。きのうの夕餉(ゆうげ)の残りを店先でかき込み、あとは座敷で昼寝である。  とろとろと淡い眠りの中で、明青は空を飛んだり、オープンカーをぶっ飛ばす調子のよい夢ばかりを見るのだった。夜の眠りではまったく夢など見ないのに、昼寝の時は必ず夢を、しかも自分に都合のよい、楽しい夢ばかりを選んでいるかのようだった── 16535666-9857-4fd7-bab1-c18e40f125bf  原田マハ『カフーを待ちわびて』宝島社  2005年宝島社・第一回「日本ラブストーリー大賞」大賞受賞  2006年『カフーを待ちわびて』でデビュー  僕の大好きな原田マハさんの『カフーを待ちわびて』を二ページほど引用しました。まだお読みでない方はぜひどうぞ。読み終えたあと喪失感を覚えるほどに印象的な小説でした。  さて、何を言いたいかというと、紙媒体とWebでは見え方が違うということです。マハさんの小説に勝手に改行は行えないので、なんかぎゅうぎゅう詰めで読みづらいな、息苦しいな、という感じだけ掴んでいただければOKです。  Web小説の改行タイミングにはいろいろな意見がありますが、二三行から四五行で改行を入れると読みやすくなります。小説のスタンダードを曲げたくない、という方もいらっしゃるでしょう。それにはもちろん反論はありません。  ただ、読者の見やすさ読みやすさを考慮すれば、適度の改行をおすすめします。『カフーを待ちわびて』の冒頭二行は別として、頭下げを目安で改行してもいいかもしれません。  小説を開いた時に読み始めてもらえるか、後回しにされるかの違いは生じる可能性があります。そのときの時間の都合や疲れ具合もありますが、怠け者の僕は、改行のない小説は読まずに閉じてしまうことがありますヾ(;´▽`A“  ─To be continued ─
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