読書中・気になったこと

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読書中・気になったこと

『いなくなった私へ』辻堂ゆめ  2015年・第13回『このミステリーがすごい! 』大賞・優秀賞受賞作 8d200e32-2cba-46d3-8b27-7f156cb744fc  人気シンガソングライターの上条梨乃は、渋谷のゴミ捨て場で目を覚ました。通行人に見られて慌てるが、誰も彼女の正体に気づく様子はなく、さらに街頭に流れる梨乃の自殺を報じたニュースに、梨乃は呆然とした。  自殺したなんて考えられない。本当に死んだのか?  それなら、ここにいる自分は何者なのか?  そんな中、大学生の優斗だけが梨乃の正体に気づいて声をかけてきた。  梨乃は優斗と行動を共にするようになり、やがてもう一人、梨乃を梨乃だと認識できる少年・樹に出会う……。  自殺の意思などなかった梨乃が、死に至った経緯。そして生きている梨乃の顔を見ても、わずかな者を除いて、誰も彼女だと気づかないという奇妙な現象を、梨乃と優斗、樹の三人が追う。  三分の一ほどを残しているのでストーリーに関しての感想は書けませんが、優秀賞を受賞している作品なので面白いはずです。着地点が楽しみです。  さて、気になったところがあったので、参考になればと書いてみます。  で描かれた小説ということを念頭に置いて読んでみてください。理由は最後に書きますが、その前にみなさん気がつくと思います。なぜこれを編集さんが指摘しなかったのかが不思議です。これをと言います。 ○視点者は一貫して上条梨乃です。気になる部分にを入れてあります。 ①〈P36~37〉 「男の子を……殺してしまったのかしら」 「ちょっと、上条さん!」  優斗に強く手を引かれて、梨乃ははっと我に返った。 「ごめんなさい」  梨乃の黒い瞳が、優斗はすぐにテーブルの下へと手を引っ込めた。 ②〈P191〉 「──僕の考えと優斗さんの考え、どっちが正しいかなあ」  目をキラキラと輝かせる(いつき)に迫られて、梨乃は。 ③〈P320〉 「僕ね、僕、今、あの夜のことを思い出したんだ」樹は急に早口で語り始めた。その目は梨乃のことを見ていない。もう切り替わってしまった画面の上に、泳ぐ視線を滑らせていた。 ④〈P321~322〉  後ろから足音がした。次の瞬間、梨乃は後ろから勢いよく抱き締められるのを感じ、驚いて振り向いた。  そこには、真剣な目をした優斗がいた。今ちょうど帰ってきたらしく、鞄を肩から下げたままだった。優斗は、梨乃に抱き締められている樹を、梨乃ごと、梨乃よりも強く抱いた。 「いっくん」優斗は強い声で呼びかけた。「大丈夫だから。今はもう怖くないよ」  優斗の腕に力がこもるのを感じ、梨乃は樹の身体に手を回したまま、驚いて身を硬くした。その反面、梨乃を介して優斗にも抱き締められる格好となった樹は、だんだんと落ち着きを取り戻していった。痙攣のような震えも収まり、しゃくりあげる頻度も落ちた。優斗はその間中、梨乃の背中に、じっと樹と梨乃を抱く腕に力を込め続けていた。  わかりましたか? ①自分の目を「黒い瞳」と表現するのも違和感があります。ありえない視点の転換ですが「ごめんなさい」の後に視点者が優斗になれば問題ない文章ですが……。 ②鏡でもない限り、自分の表情は自分には見えません。ですから、「困った顔をした」はおかしいのです。 ③樹がテレビの画面に泳ぐ視線を滑らせたことに、視点者の梨乃がと決めつけることはできません。 ④それまでの描写から、梨乃は正面から樹を抱きしめているようです。それを梨乃の背後から優斗が抱きしめている。一度振り向きはしましたが、ずっと見ているわけではないようです。 〈梨乃の背中に〉  “あご”を当てて、梨乃の肩越に前を見ているかもしれないし、“頬”を当てて目を閉じているのかもしれない。  気にせず読んでいく人もいるかもしれませんが、僕みたいに引っかかる人もいるはずです。  視点者に見えたもの、聞こえたもの、触れたもの、感じたこと、それ以外を書いてはおかしなことになりますよ。という例でした。  ─To Be Continued─
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