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大人の事情
学校から帰ると、隣町のおばあちゃんが居間のソファーに座っていた。いつもより少しお洒落なブラウスの上に、紺のカーディガンを着て、あたしを待っていたみたいな顔で微笑んだ。
「ランドセル置いてらっしゃい。お出掛けするわよ」
「真梨佳は?」
委員会で遅くなった高学年のあたしと違い、小2の妹は3時間程早く帰宅した筈だ。
「先に、おじいちゃんと待っているわ」
「待ってるって、どこで?」
「東町のイオン。晩ご飯は、ハンバーグにしましょうか」
隣町の大型ショッピングモールには、ファミレスがある。おばあちゃん家に行った帰りに、両親と何度か入ったっけ。
「うんっ、置いてくる!」
あたしは階段を駆け上がった。沢山のお店がある場所だ。おじいちゃんと一緒だなんて、真梨佳はきっと玩具を強請っている筈だ。ズルい、ズルい! あたしだって、なにか買って欲しい。出来れば、可愛いスカートが欲しいなぁ。
いつもはバスだけど、この時間は道が混むからと、おばあちゃんはタクシーを呼んだ。駅から電車に乗り換えて、東町に着いた時には、夜になっていた。
待ち合わせ場所を決めていたらしく、おじいちゃん達は1階のフードコートのベンチにいた。真梨佳はキッズスペースで遊んだあと、ここで鯛焼きを食べたらしい。おじいちゃんは、持ち帰り分の紙袋を下げていた。
「ママ達は?」
「大切な用事があるの。2人とも、今夜は、おばあちゃん家に泊まるのよ」
ハンバーグの横のポテトを噛みながら見上げると、おばあちゃんはお椀を置いて、静かに答えた。それ以上踏み込むことが許されない雰囲気を感じて、あたしは無言で頷くしかなかった。おじいちゃんの隣の真梨佳は、スパゲッティのケチャップを口の周りに付けたまま、エビフライに齧り付いていた。
週末を迎える金曜日の夜――両親が、あたし達の未来に関わる大切な話し合いを行っていたことを、1年前のあたしは知るよしもなかった。
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