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夏休みを越した、ある曇天の日。
彼のスマホが一件のメッセージを通知した。通知にアルファベットが並んでいるのを見て、彼の手は震えだした。おそるおそる開くと、送り主とのメッセージは一年ぶりと表示されていた。そして、一年前送っていた、一方通行のメッセージ全てに、しっかりと既読がついている。奇跡が起こったと思えた。その文章を読むまでは。
*
お久しぶりです。いかがお過ごしですか?絵は描いていますか?音楽は聴いていますか?
何も言わずにいなくなってごめんなさい。貴方が方々に私のことを聞いてまわってくれていたことは知っています。それでも何も情報を得られなかったでしょう。それは、私が口止めをしたからです。
私は今、病院にいます。たった一人の病室で、たくさんの管に繋がれています。
実は、重い感染病にかかってしまったのです。
いなくなった日、私はいつものように大学で練習をしていました。家に帰って、なんとなく喉に違和感を覚え、咳をすると、そこから咳が止まらなくなって、血を吐いて倒れていました。
気付けば、病院に隔離されて居ました。私は真っ先に貴方のことを思い浮かべました。しかし、事実を告げればあなたは会いに来てしまうと思い、消息を絶つことに決めました。
私の病気は致死率の高い感染病。明確な治療法はまだ分からないそうです。
だから、あなたにだけはうつしたくなかった。…会いに来てほしくなかった。
今は病状が落ち着いていますが、いつ死んでもおかしくない状態だそうです。死ぬ前にどうしてもあなたに本当のことを伝えたかった。それで、電話はできませんが、メッセージを送りました。
ごめんなさい。これはあなたに愛されたかった私のエゴです。
愛してる。さようなら。
*
それ以降、彼が送ったメッセージに再び既読がつくことはなかった。
日曜日、彼は首をつろうとしているところを隣人に見つけられ、阻まれたらしい。
彼は何度も恋人の名前を叫びながら抵抗し、遂には未遂で終わった。しかし、翌日には何事もなかったように笑顔で挨拶をされたのが返って気味が悪かったと隣人は言った。
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