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エピソード1
十六度目の夏。
その頃の私は、何か刺激を求めていた。自分が平凡であるということに気づき始めて、何か特別を欲しがっていたのだろう。
あの日出会ったもの、それは刺激というにはあまりにも鋭く、特別というにはあまりにも際立ちすぎる美だった。
昼休み、向かいの校舎の四階の窓。彼はそこにあった。
細く長い脚を窓の外に投げ出して座り、眩しそうに空を見上げている。陽が照らして、肌も、髪の毛も、透けるように淡い。風が重たそうな前髪を揺らして、その端正な顔を露にした。
その姿は今まで見た誰よりも人間らしさがなかった。
そう、天使のような…
今思えば、彫刻と言ったほうが近かったかもしれない。天使というよりは大人っぽかった。それも、かのダビデ像をも彷彿とさせる、造形美。
そんな彼に、ふと窓の外を見た私は、目を奪われ、一時的に言葉を失った。
「どしたの、リエ」
サキの声で我に返る。
「あそこ…」
「わ、超イケメン、誰?知り合い?」
「あ、ううん。全然。…知らない人」
「そっかぁ」
少しの沈黙。サキは私の顔を覗き込んだ。ツインテールが顔と垂直に垂れる。
「なに、サキ」
「べっつにぃ。…あの人さ、制服じゃないから、転校生かもね」
「転校生」
「そ、転校生」
転校生、転校生、
「…嬉しそ」
「もうサキ、やめてよ」
私が少し怒っても、サキは意味ありげに笑っていた。
違うのに。
サキが思っているような感情とは違うとそのとき私は確信していた。
あれほど美しく、芸術的なもの。そんな対象じゃないのだ、と。
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