エピソード2

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 しかし、意外にもその日、美術部に顔を出した人は私と西村先生、そしてもう一人だけだった。 「こんにちは、佐々木トオルです」 天然パーマの顔が濃い男子。そしてハキハキ喋る。 「部員は一人しかいないと聞いていたんだけど、佐々木君が正規の部員なのかな」 「いえ、部員は私です。二年の平井リエです」 私は慌てて訂正する。追っかけだと思われたらかなわない。 「佐々木君はどうしてここに?」 「はい」 名前を呼ばれ元気よく返事をする。 「僕も二年なのですが、進級して芸術の授業がなくなり、絵を描く時間が結構好きだったことに気づいたので常々入部したいと思っていたんです。夏休みに入る前に入部しようと今日入部届を提出しに来たのですが、それがたまたまこのタイミングに。でも、入部はできますよね?」 西村先生は、勿論です、と返事をすると部費等の説明をしに職員室に戻っていった。 同学年とはいえ話したことのない人といきなり二人きり。気まずい。沈黙に耐え切れそうにない。 「こ、ここに来たのが佐々木君一人とは意外だったな。もっと、たくさん来ると思ってた、ハハ」 「あれ、平井さん知らないの」 佐々木君はわざわざこちらに体を向けて驚いた顔をした。 「先生さ、さっき群がる女子達に結構厳しめに注意してたんだよ」 知らなかった。 私は先生の顔を思い浮かべる。作り物のような顔をしているが、話していると結構人間味があるし、優しそうな人だ。厳しい、というのは想像がつかない。 戻ってきた先生は、走ったのか、少し息が切れていた。 微笑んだ顔はやはり美しく、穏やか。首の細さ、長さ、脚の筋肉の付き具合、何をとっても全身完璧だ。 思わず見とれてしまう。目が釘付けになって、離せない。 「あの、部員になる上で気になるのですが、先生は指導の経験などはあるのでしょうか」 佐々木君がきく。私はドキリとした。 「いや、指導するのは初めてですね。代理の外部教員ですから…」 先生は穏やかな口調で答えた。私は胸を撫で下ろす。 「え!初めてなんですか。じゃあ今まで取った賞とか…」 「佐々木君!せっかく教えてくださるのに失礼だよ!」 私はムッとして思わず口を挟む。 「あ、すいません…」 一体、どうしたらこんな無神経な質問ができるのだろう…。悪気はなさそうだが。 私は、思わず声を荒げてしまったことが少し恥ずかしくなって、咳払いをして先生の方を盗み見た。  その時、長い睫毛で縁どられたヘーゼルアイと不意に目があった。 瞳の色まで、芸術的だ。 大きなアーモンド形の目がこちらを見たまま少しだけ細められた。 微笑んだのだと気付いた。その微笑みは、眉、鼻、口角、何をとっても全く非の打ち所のない芸術品だった。 「平井さん、顔赤いけど大丈夫?熱?」 佐々木君の声で、私の高まった感情は一気に現実へ引き戻された。
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