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美術室の扉を開くと、そこは薄暗い部屋だった。
「電気、つけないんですか」
その中心にいる後姿に問いかける。
「僕、今にも雨が降りそうな曇り空って好きなんだ。厚みがあって、雲なのに硬さを感じる。電気をつけないことでその曇天と一体になったような気分に浸ってるのさ」
窓を見ると確かに外は今にも振り出しそうな曇り空だ。
「さっきまで晴れてたのに、いつの間に…」
先生は振り向かないまま今度は私に問いかけた。
「息が切れているみたいだね、何かあったの」
鋭い。
「階段を、駆け上がってきました。遅くなってすみません」
「そういうことじゃないんだけどなあ」
先生は椅子に座って、長い脚を持て余すように組んでいる。その視線の先にあるものは何なのか。振り返らない先生は、何をそんなに一生懸命見ているのか。
「先生…」
呼んでも振り返らない。私は静かに先生に近づいた。先生の見ているものを私も見たかった。しかしそこで見たのは、
「先生…?」
「ああ、来ちゃったんだ」
上から覗く先生の顔はやはり美しい。ただ、さらに一つその美しさを引きたてるものが光っている。
「先生も何かあったんですね」
先生はそれを拭うこともせず、ただ流したまま、目を閉じた。
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