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1 泰河
背の高い杉の木と羊歯の茂み。白い空。
あの森だ。夜国の。
昼や夜ではなく、時間が わからない。
司祭は、ここに居るはずだ。
司祭だけでなく、儀式で夜国へ入った人たちや
肉体を失った影人霊たちも。
けど、森の中は無人に見えた。
近くの杉の木の根元まで、オレの影だけが伸びている。
影は、あの光の人の形をしていた。
肩につく 癖のある髪。
恩寵のように 重ねた長い天衣。
足元から伸びていても、オレの影じゃないんじゃねぇか?... と、影が掛かった杉の木に近付き
赤茶の縦に裂ける樹皮に触れてみると、その影も
オレと同じように動き、樹皮の上で 手と手の影が重なった。
他に 影は無い。
地上のものと同じもののように見える 杉の木や羊歯にも。
ブーツの底が踏む土は、固くも柔らかくもなく
手で砂のように掘れる事も知っている。
森へ入ると、あの男のことを思い出した。
オレの顔をしていて、土の中に居た。
掘り返してしまった男を。
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