月とサイリウム

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月とサイリウム

風呂から上がると、ほど近い玄関から入りこむ1月の冷気がシャワーカーテン越しに肌を刺した。 手早く着替え、全身から湯気を立てたままリビングへ戻る。 夫はまだソファーでTVゲームをしていた。 派手に汚された食器たちは、カレーやコーンポタージュのにおいを発散したままシンクにあふれかえっている。 「ごめんね、すぐ洗うから」 「いいよゆっくりで……うわっ!」 夫の操作するプレイヤーのライフが尽きたらしい。 あーあ、という声と電子音を聴きながら、私はエプロンを締めてキッチンに立った。 ──こういう人だと、思わなかった。 そんな言葉を口の中に転がしながら、スポンジに食器洗剤を垂らし、カレー皿に取りかかる。 全身にわだかまる疲労を意識しながら、わしわしと手を動かした。
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