31人が本棚に入れています
本棚に追加
月とサイリウム
風呂から上がると、ほど近い玄関から入りこむ1月の冷気がシャワーカーテン越しに肌を刺した。
手早く着替え、全身から湯気を立てたままリビングへ戻る。
夫はまだソファーでTVゲームをしていた。
派手に汚された食器たちは、カレーやコーンポタージュのにおいを発散したままシンクにあふれかえっている。
「ごめんね、すぐ洗うから」
「いいよゆっくりで……うわっ!」
夫の操作するプレイヤーのライフが尽きたらしい。
あーあ、という声と電子音を聴きながら、私はエプロンを締めてキッチンに立った。
──こういう人だと、思わなかった。
そんな言葉を口の中に転がしながら、スポンジに食器洗剤を垂らし、カレー皿に取りかかる。
全身にわだかまる疲労を意識しながら、わしわしと手を動かした。
最初のコメントを投稿しよう!