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「……嫌だ」
俺が間髪入れずに断るも、またもや瀬川は諦められないと言ったように俺の手をぐっと掴む。
どんだけ諦め悪いんだよ。何をどう断っても結局瀬川や鶴田達に言いくるめられるんじゃん。
半ば諦めモードで立ち尽くしていると、瀬川は「じゃあデートじゃなくてもいいから遊びに行きたい!」と顔を近づけて来る。
仮にも王子と呼ばれる学年のアイドルみたいな男が、同じ男の俺に必死に遊びの約束を取りつけるために食い下がっていると思うとなんとも妙な気分だ。
ちらりと時計を見れば、もうあと5分くらいで授業が始まってしまう。屋上から走っても教室まで2、3分はかかる。
このまま瀬川にごねられたら俺は確実に遅刻する。でも俺が断ればまた瀬川が食い下がり話が終わらない。
……なんだか凄く瀬川の罠に嵌められている気がする。
人畜無害みたいな顔をしといて、逃げ場のない教室のど真ん中でみんなの前で告白してきたり、周りの鶴田達を使って俺を連れ出したり、何もかも瀬川の計画通りに動いているようで悔しいが、そんな事を言っている時間がない。
「あぁもう分かったよ!分かったから手ェ離せって!授業遅れるし!」
ヤケになって少し大きな声でそう言えば、心底嬉しそうな王子スマイルで「やった!」と瀬川が俺の手を離した。
考えている余裕もなく、俺は急いで走って教室まで逃げ帰った。瀬川達に追いかけられることもなく、1人で教室に駆け込んだ俺はカジ達にびっくりしたような表情で迎え入れられた。
「ど、どうしたの遥。まさか瀬川達になんかされた?!」
焦ったように聞いてくる奏を手で制し、ゼェゼェと荒い息を整える。何回か深呼吸すると大分落ち着いてきた。
「や、別に何もされてない……。ただ遅刻しそうだったし瀬川達と教室入ってくるとまた騒がれるからそれが嫌で走ってきただけ……」
一応嘘は言っていない。
ちょっと瀬川に食べさせてやれとか言う忌々しい司令を聞いたり、次の土曜遊ぼうとか言う最悪な予定を入れちゃった記憶はあるけど。
……土曜の予定、体調悪くなったとか言ってドタキャンできねーかな。
俺はそんなことを思いながら、ゆっくりと席に着いた。
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