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旅の装束に変えた弥兵衛は、再び洞穴に入り不動に対している。
「京の寺であるが、下京となる松原通りと麩屋町通りが交わる所に不動寺と言う寺がある。俗に松原不動とも呼ばれ、こじんまりとした寺であるが、平安の世から続く名刹だ。祀られている石不動は弘法大師が自ら彫ったと言われておる」
「何か由緒がある寺で、私のような者で務まりましょうか」
「心配することは無い。老人が取持ってくれる二人が、好く教えてくれるはずだ」
老人が、大きく頷いた。
「そうじゃ、その二人と繋ぎを付けた。繋ぎと言っても夢の中に入って話をしたが、お前のことは仁義を目指す若者で凄技の持主と伝えてある。だが闇の剣士とは、一言も話してはおらぬ」
「判りました。そこで、二人とは何処で落ち合えば宜しいのでしょうか」
「ここから京へは二日もあれば着くじゃろう。じゃが急ぐ旅でもなかろうて、三日後の夕刻に不動寺でどうじゃ。因みに娘の名は智里で、親は大黒屋を名乗る大店の紙屋を商っておる。青年は下駄屋の息子で、商いの見習として下駄の歯を直す外回りをしておる。名は勘蔵で二人は幼馴染じゃ」
「何から何までお世話になりました。初めてこの地から外に出ますので、ゆるりと見物がてら京へ向かいます」
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