どこかの男女の物語

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これが昨日の全てだ。酔った世凪にキスをした。 今までの関係を壊すのが怖くて、ずっと蓋をしていた気持ち。あんな形で表に出てくるとは思ってもみなかった。 「葵」 レモンティーの残りを全て飲み干した世凪は、すっと葵を見つめる。長い髪が風に揺れる。ピアスがキラキラと光っていた。 「ごめん。私嘘ついた」 「え?」 「覚えてるよ、昨日のこと」 体が硬直するのがわかった。なんで、と発する前に世凪は遮る。 「ちゃんと覚えてる。忘れるわけない」 「世凪?」 「葵はただ酔ってただけかもしれない。でも私は」 「世凪」 彼女の瞳は揺れていた。心地よい太陽が二人を照らす。今度は葵が口を開いた。 「俺だって酔ってたけど、でも、誰にでもあんなことするわけじゃない」 「葵」 「ごめん世凪。俺、世凪に嫌われたらどうしようって、ずっと」 「葵。私、葵が好きだよ」 二人の視線が混じり合った。彼を真剣に見つめるその眼差しに、もう迷いはない。 「私、ずっと好きだったよ、葵のこと」 「ほ、ほんとに?」 「うん。だから昨日のこと忘れるわけない」 世凪は泣きそうな顔で笑った。思わず彼女の手に自分の手のひらを重ねた葵は、すっと息を吸う。 「世凪。俺も世凪のことが好き。俺と付き合ってくれる?」 何度も頷く彼女は、彼の手に自分の指を絡めた。嬉しそうに笑う葵は、昨日のことを打ち明ける。 「実際はね、昨日、床で頭ぶつけた時に一気に酔いが醒めたんだ。だからその前の記憶はほぼなくて」 昨日のことは二人だけの秘密。そして、忘れるはずがない大切な記憶。暖かい陽の光に包まれ笑い合う。柔らかい風が二人を包み込んだ。
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