28人が本棚に入れています
本棚に追加
橋をわたる女の子がいる。渡月橋と呼ばれる橋を。
赤い振袖を着た、数え十三の女の子だ。すっきりとした顔立ちで、和装がよく似合っているが、表情はけわしい。
女の子が不機嫌なのには、変わったわけがある。歩く女の子の後ろから、ふつうの人には見えない妖怪やゆうれいが、女の子を呼んでいたからだ。
「かなん、かなん」と。化けものたちは笑いながら、女の子の名前を呼んでいる。
女の子はたくさんの呼び声を、つんと無視して、橋をわたりきった。
古くから現代の世にまで続くならわし、十三参り。
数え十三になる子の成長を祈り、お寺から知恵や徳をさずかる晴れの日。
京都の嵐山地方では「かえりの橋をわたるまではふりかえるな」というルールがある。ふりかえれば、せっかくさずかった知恵が落ちてしまう。大人たちはいじわるで後ろから子を呼ぶ。
いじわるにもまけずに「ふりかえらず橋をわたれ」というルールを守った女の子は、知恵と徳と、それからおまけに、化けものたちにすえながく好かれる運まで、菩薩さまよりいただいた。
最初のコメントを投稿しよう!