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果南は気まずさから、解決策を考えた。なんとしても、瞳子が落とした「ひいおばあちゃんの目玉」を見つけねば。
果南は電信柱の影や植木の根元に向かって「あんたたち」と、呼びかけた。
とたんに、真っ黒だった影の中から、猫の耳や犬の鼻先が出てきた。
「なぁ、あんたたち。このあたりで瞳子のさがしもの、見かけへんかった? ……こう、ビー玉くらいの、ひいおばあちゃんの目玉や」
影の中で、猫の耳や犬の鼻先がぴこぴこと動く。果南はため息をついた。
「……見てへんって、言うてるわ」
「果南ちゃん、動物の霊ともお話できるの? すごい」
「今はそんなことええ。瞳子、ここら以外で、心あたりある場所は?」
「ええと……」
瞳子が涙をふいた。
「あとは、湖岸かな。先週、びわ湖沿いを歩いたから」
「よっしゃ。絶対に見つけたるから、一緒に湖岸にいってみよ」
果南は瞳子の小さな手をひいて、びわ湖のほうにむかった。
◇◇◇
「見つからへんな」
旧東海道から歩いて五分の、整備された湖岸。
果南は瞳子と湖畔に座り、夕暮れのびわ湖を見つめていた。びわ湖は海と見まちがうほど広い。
「ごめん瞳子。そろそろ帰らんと、おかんとキリさんに怒られるわ……」
瞳子は背中を丸めて、しょぼくれていた。
びわ湖の水面には、夕日が山に沈んでいくさまが、映っていた。
「……瞳子。なんで、ひいおばあちゃんの目玉なんて、持ちあるいてたん?」
果南は、気になっていたことを聞いた。
「あの目玉は、代々伝わる、お家の宝物やろ?」
水面で夕日がゆれている。
「……うん。なくしたことがばれたら、お父さんにも、お母さんにも、怒られる」
果南は瞳子の家に呼ばれたとき、「ひいおばあちゃんの目玉」を見せてもらった。
木箱に保管されているその眼球は、ガラスのように透きとおっていた。飴玉みたいでおいしそうだなと、ほんのすこしおもった。
「学校でいやなことがあったときとか。お母さんに怒られたときとか。ひいおばあちゃんの目を持つと、わたし、とても安心するねん。ひいおばあちゃんに会ったことないのに、なんでやろうな。もっとがんばろうって、気持ちが明るくなる」
「そっか。お守りにしてたんやな」
「うん」
瞳子は背を丸めたまま、びわ湖を見つめていた。きっと心の中では、なくした宝物を、思いうかべている。
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