28人が本棚に入れています
本棚に追加
「こっそり持ちだして、お守りにして……落としてもうた」
びわ湖に映る夕日は小さくて、今にもとぷんと消えそうだ。
果南はしばらく瞳子と夕日を見ていたが、夕日が山にかくれると、すっくと立ちあがった。
「このままたそがれていても、らちがあかん。瞳子、こうなったら最終手段や」
「え?」
瞳子がまばたきをした。
「さがしものは、いったんおいといて。まずはお家のひとたちにあやまろう」
「え……」
「瞳子。なくしてごめんなさいって、あやまろう。で、一緒にさがしてもらう。それが一番や」
「……いや。そんなん、かなわんわ!」
「だって、ひいおばあちゃんの目玉、三日も探したんやろ? さがしもの、もう見つからんかもしれん。早いうちにあやまったほうがええやろ」
瞳子は「いやや」と、頭をかかえた。
「今なら、わたしも一緒にあやまったる」
「こわい。絶対いやや」
散歩道をあるく通行人がちらちらと、果南たちを見ている。
「それに果南ちゃん、なんも悪くないよ。一緒にあやまらんでええやん」
「なんも悪くないこと、ない。瞳子がそんなに心細くしてるの、ぜんぜん、気づかへんかった」
「……果南ちゃん」
「せやから」
果南が藤色のふろしきをほどいた。中からこげた三笠の皮を取りだし、両手で持つ。
「まずは、あんたのひいおばあさまに、ごめんしよか」
ちょうどびわ湖やし、と果南はつづけた。
「え、まさか、ひいおばあちゃん呼ぶの? ……来るの?」
「わからんけどなぁ。かわいいひ孫と、うちのお菓子があるし。やってみる価値はあるやろ」
「お菓子って、その失敗した三笠の皮、おそなえにするの?」
「これしかないねん」
「やめて果南ちゃん」
「これ、おいしいで」
「味の問題やない」
「瞳子は気ぃ小さいな。水神のひ孫とは、思えんわ」
果南はあわてふためく瞳子を横目に、びわ湖に向かって呼びかけた。
「水神さん、水神さん。月千堂の果南です。水神さんのひ孫も一緒です。話あります。おいしいお菓子も持ってきましたので、どうぞ、姿をお見せください」
果南の呼びかけにこたえて、びわ湖の湖面が、大きく波打った。
急にあたりが曇り、にわか雨が降りだす。
湖岸を散歩していたひとたちは、雨にぬれないところへと、走っていった。びわ湖にいた水鳥たちは、ゆれが大きくなった湖面におどろいて、ばさばさと飛びたった。
うすぐらい湖面を見つめているのは、果南と瞳子だけだ。
瞳子は果南の背中に隠れて、がたがたとふるえている。果南はしゃんと立ち、水神があらわれるのを待った。ただ雨がふる。
やがて湖面の波紋の下に、大きな影がうかんだ。
最初のコメントを投稿しよう!