さかいめの和菓子屋においで

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 橋をわたる女の子がいる。渡月橋(とげつきょう)と呼ばれる橋を。  赤い振袖(ふりそで)を着た、数え十三の女の子だ。すっきりとした顔立ちで、和装がよく似合っているが、表情はけわしい。  女の子が不機嫌なのには、変わったわけがある。歩く女の子の後ろから、ふつうの人には見えない妖怪やゆうれいが、女の子を呼んでいたからだ。 「かなん、かなん」と。化けものたちは笑いながら、女の子の名前を呼んでいる。  女の子はたくさんの呼び声を、つんと無視して、橋をわたりきった。  古くから現代の世にまで続くならわし、十三参(じゅうさんまい)り。  数え十三になる子の成長を祈り、お寺から知恵や徳をさずかる晴れの日。  京都の嵐山地方では「かえりの橋をわたるまではふりかえるな」というルールがある。ふりかえれば、せっかくさずかった知恵が落ちてしまう。大人たちはいじわるで後ろから子を呼ぶ。  いじわるにもまけずに「ふりかえらず橋をわたれ」というルールを守った女の子は、知恵と徳と、それからおまけに、化けものたちにすえながく好かれる運まで、菩薩(ぼさつ)さまよりいただいた。
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