27人が本棚に入れています
本棚に追加
最終話
「あー、桜も散っちゃったなぁ」
「5月になればな。 でもお前嬉しそうだな?」
「春は好きだけど別れの季節って言うじゃん、でもあゆ君とはそうならなかったし! 結構複雑だったんだよ、桜の花は好きだけどあゆ君と別れたりしたらイヤだなぁって。 だったら早く散ってくれた方がいいのかなぁとか」
なんだそりゃ? そんなの迷信だろうが。 けどそんな幼稚な悩みを真剣に考えてるのが姫乃らしい。
「あッ! それより勉強勉強っと」
「やる気あるな」
「うん、そりゃ勉強は頑張らないとねぇ。 お母さんも少しは見返したいし」
姫乃はテーブルに向かって気合を入れる。
「あんま根詰めすぎるなよ?」
「うん、そうなりそうになったらあゆ君とイチャイチャしてリフレッシュする!」
「はいはい……」
勉強を頑張る姫乃をボンヤリ見ていた。
こいつってこう見えて中学までガリ勉だったんだよなぁ、俺は今の姫乃しか知らないからそんなの全然想像つかないけど。
「ん? なんか付いてた??」
「あ、いや。 姫乃って昔は真面目ちゃんだったってお前の友達2人が言ってたけどそうなのかなぁって思っただけ」
「そうなんです! あたしって今思うと超真面目だったんですよ」
「何故敬語?」
「いやぁ〜、なんとなく初心を思い出しましてみんなに敬語でしたから」
まだそれ続けんのか。
「あの2人にはタメ口で話してんのな」
「そりゃもう他人行儀はよしてって口うるさく言われからです」
そぉいや親にも敬語だったよな姫乃って。
そう躾けられたんだろうけど。
「つーか学校でもあの2人以外敬語なわけ?」
「そぉですよ。 あ、でもあたしの見た目でそれってなんかギャップ萌えみたいなの感じるみたいです、えへへ」
「いつの間にか自慢になってるし」
「どうですか? こうしてみると最初の頃思い出しません??」
まぁ確かに。 容姿はちょっと前より大人っぽくなった気もする、道端の陰でお腹空かしてたあの姫乃がこうして今も俺の部屋にいる。
好きになったらいけないとかこいつが押し掛けて来て2人で生活するなんてどうなるんだろうとか思ってたよな。
「ちょっと泊まらせてもらうつもりがあゆ君をこんなに好きになっちゃうなんて今考えるとあたし……」
まさか後悔してるって流れでは……
「あゆ君に出会えて本当に良かった!」
「ホッ……」
「ホッ??」
「いや、俺姫乃に色々酷いことしたからさ。 後悔してるかと」
「そりゃあ死に掛けた挙句竜太の家にまで大迷惑掛けましたから」
「や、やっぱ後悔はするよな」
「でもあたしそれでもあゆ君のこと大好きですしちょっとおかしい子なのかもしれません、そんなあたしに好きになられたあゆ君も大変ですね…… ってあれ?! 笑うとこですよここ」
いまだに生々しい記憶が甦るので苦笑いしか出てこない……
「って調子狂うから普通に戻れよ」
「えへへッ、実はあたしもあゆ君とはこの喋り方よりもう普通に話すのが慣れてたし」
「俺も」
それから2年が経った。
「あゆ君! お迎えありがとう。 待たせてごめんね」
「いいよ、お疲れ様」
姫乃は目標通り調理師専門学校に通っていながらバイトをしていた。
「どうだった?」
「もう慣れてきたかな、あゆ君お客さんで来ても大丈夫だよぉ〜?」
飲食店でのバイトで姫乃は頑張っている。 親とはまだまだ確執があるけど。
「やっぱり車あるといいね! ドライブデート出来ちゃうし」
「思い切って買ってよかったよ」
「あ、はい、今月のお給料」
「それは姫乃が持ってろよ」
「だってせっかくあたしもお金稼げるようになったから恩返ししたいんだもん」
「だったらもっと稼げるようになったら返してくれ」
「あははッ、あたしと一緒に居たいってことだよね。 ありがとう」
姫乃はニヤッとして俺の肩をツンツンとつついた。
「凄く感謝してるよ」
「それは俺もだよ姫乃」
「ふふッ、それとね、あたしいっぱい目標あるんだ!」
「ちょっと前までやりたいことないって言ってたのにな」
「だね、あたしもびっくり。 もっとお料理上手になって調理師になって。 あ! 自分のお店とかも持ちたいな、なんて」
「そりゃ大変だな、だったら貯金しないとな」
「でもね、1番叶えたいのはあゆ君と結婚して夫婦になること!」
「ふーん」
俺の脇腹を突いてなんだそのリアクションは? と言いたげな顔をされる。
「いや、俺と同じだなって思って」
「あゆ君意地悪〜! ちゃんとそこはそれっぽい返し方してよぉ」
「あはは、ごめんな」
「ねえ」
「ん?」
「大好きだよ、あゆ君も言って」
「まったく…… 俺も大好きだよ姫乃」
「ふひひ、嬉しい。 あたしをあの時拾ってくれてありがとね、あゆ君」
fin
最初のコメントを投稿しよう!