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怠い。 毎日毎日仕事、家に帰って寝る、それだけの日々。
仕事と言っても電車に揺られてショボい会社勤務で面白みもクソもない。 面白みもないから時間も長く感じるし。
歳を取ったら時間の流れが早く感じるとか言ったやつ誰だよまったく。
はぁ、もういいや。 明日も仕事だしとっとと帰って寝よう。
いつものようにボロアパート目指して住宅街を通って帰っていると隣の路地から何やら気配を感じた。
なんだ…… 見られてる?
野良猫でもいるのかと隣の路地に入り進んでいくと行き止まりの隅に女の子が地面に縮こまって顔を半分腕に埋めてこっちを見ていた。
ゆ、幽霊じゃないよな? もう夜だし暗いし雰囲気抜群なんだけど……
「おい、君どっか具合悪いの?」
あ、ヤバい、咄嗟に話しかけてしまったけどもしかしてこれはなんかの罠か? 美人局とか?
だとしたらこの辺に連れがいたりして。
キョロキョロと辺りを見回すけどどこにも隠れるような場所はないし。
「何してるんですか?」
「え?」
俺が辺りを警戒しているとその女の子が喋った。
「何ってこっちのセリフだよ。 君こそこんなところで何してるの?」
「何かしてるように見えます?」
質問を質問で返すなよ。 つーかこういう類は面倒事なような気がする。
「ああ、ごめん、俺なんかに話し掛けて欲しくなかったよな。 邪魔したら悪いから俺はこれで失礼するよ」
そうして彼女に背を向けると「ううッ……」とお腹を押さえて片方の手をこっちに向ける様に地面に手をついていた。
「ひょっとしてお腹空いてる?」
「少し」
顔を埋めたままでそう答えるその子から目がチラリと見えた。
こりゃ相当腹減ってんだなぁと感じた。
「こんなとこいないで帰って夕飯でも食べたら?」
そう言うと「イヤ」とだけ返ってくる。
お腹が空いてるのに帰りもしないで夜にひとりこんなとこに居るなんてもしかして家出少女か? というかやっぱり面倒事のような気がする。
「そうか、じゃあ俺はもう行くけど意地になってないでとっとと帰れよ」
俺はもう振り返らずにそこから立ち去った。 そしてアパートとは逆の方向に足を進めていた。
あれー? 俺何やってんだろう?? あんなの放っておいて帰ればいいのに。
そう思いながらも近くのコンビニで適当にパスタ弁当を買って先程の女の子が居た場所まで戻ってくると相変わらずその子はそこに居た。
「ほらよ」
目の前にコンビニで買ってきた弁当を置くとその子は驚いて顔を上げた。
うわッ…… なんつう可愛い子。 まだあどけなさが残るその子は完全に俺の好みのタイプの顔をしていた。 くりくりの目にスッとした鼻筋に厚くも薄くもないちょうどいい唇。 というか何歳なんだろ?
どう見ても学生、高校生かな? 平日なのに制服も着てないし。
その子はタンクトップとキャミソールにショートパンツ、今は夏だから薄着だなと自分の好みのタイプなのでしっかりチェック…… けどガキに手を出したら犯罪だし仕事はなんだかんだでクビになりたくないし。
「これあたしに?」
「腹減ってたんだろ」
「お金ないです」
「そんな気したからいいよ。 それ食べたらちゃんと家に帰るんだぞ」
「ありがとうございます。 あの…… さっきも言ったんですけど」
「お金はいいから」
その子はお辞儀して袋から弁当を出すとちょっと嬉しそうな顔をしていた。 それなら買ってきた甲斐もあったというもの。
よほど腹が減ってたのか夢中で食べていた。 結構がっついていたので途中でむせていたがなんか昔実家で飼ってた犬みたいにガツガツ食べるから少しニヤッと笑ってしまうとその子は俺を見て少し落ち着いて食べる。
毎日つまんない日常だったから路地裏に落ちてた美少女に食べ物恵んでやった。
あ、なんか小説のタイトルみたいだな。 まぁいいや、そろそろ帰ろう。 俺も見てて腹減ってきたし。
「じゃあな」と言って俺はその場を後にした。 もう会うことないだろうなと思って歩いていると少し離れた後ろから足音がした。
まさか……
振り返ると10メートルくらい後ろから彼女が俺の後ろを歩いていた。 ピタッと止まると彼女も止まる。
なんなんだ? 確かに俺のタイプの子だけどついてこられるとなんか怖くなってきた。
あー、家が俺と同じ方向とか? だったら納得だ。
そう言い聞かせて自分のアパートに着いたがその子は俺を後ろからずっと見ている。
こ、これはやっぱり何かの罠か?! 俺の家を特定して後からあの子の男が俺の家に関係を持っただろ? と押し入って金をふんだくるパターンか?
だとしたらここで立ち止まらずあの子を巻くしか…… でももうここが家だってわかっちゃってるよなぁあの子にも。
「君も家がこっちの方角?」
試しに訊いてみた、すると首を横に振った。
違うのかよ!! 怪しすぎるこいつ。
話し掛けると立ち止まっていた彼女はこちらに近付いてきた。
「食べたらとっとと帰れって言われましたから」
「は?」
「帰れそうな場所あたしにはお兄さんのところしか思いつかなくて」
「は?」
この子は一体何を言っているんだろう?
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