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「今日はお出掛け〜!」 「なんで日曜なんだよ? 俺は明日から仕事あるから日曜日はゆっくり過ごしたいのに」 「だって昨日まではあたし絶不調だったんですもん。 今日は元気ですけど!」 「世話になってる挙句遊びたいなんてお前って遠慮がないよなぁ」 「あたしこそ明日学校あるんですから条件は一緒ですしね」 10代のガキは元気だな。 学校なんて行ってもどうせ授業中は寝てるんじゃないか? おっと、高校デビューなこいつはそんなことないのかな? 「もうすっかり寒くなってきたしいつの間にか冬ですね」 「こんな長居するとは思ってもみなかったぞ」 「えへへ、あたしもこんなにお世話になるなんて思ってもみなかったですけどそれだけあたしに心地良い空間を提供してくれる一条さんが悪いんですし」 「人のせいにするな。 どうしてお前の冬服を俺が買ってやらなきゃいけないんだか」 「だから安物でいいですから。 出世払いってことでいつか返しますし。 それともあたしの身体で良ければいつでも返せますけど」 「だからそういうのは求めてないって」 だったら俺ってこいつに何を求めりゃいいんだ? と言ってて思う。  「ん〜、いくら図々しいあたしでも一条さんがここまで欲がない人だったなんて思いませんでしたねぇ。 でもその方があたしにとって都合がいいっちゃいいんでしょうけど」 「図々しい自覚はあったのか。 それとどこまでも失礼な奴だなお前は」 「ふふッ、だって一条さんですし」 その時に都合が良い存在でしかないのかもな、昔も今も俺は。  そして家を出て店に行って姫乃の買い物に付き合う。 初めの方は姫乃と一緒に出掛けるとかこんなガキ相手にと抵抗とかあったけど今はそれも薄れていた。 10個近く歳が離れてるけど姫乃は全く気にしてないようだったし。 「どうです? 可愛いですか?」 「いいんじゃない」 「全部それだからわかりません」 「どれ着ても被っても似合うと思ってるし」 「ほへぇ〜、それだけあたしのポテンシャルが高いってことですね!」 適当に言ってみたが姫乃は少し上機嫌になっていた。 俺と行くよりお前の友達とかと服選んだ方が間違いなさそうだけど。 あ、お金の提供者居た方が予想外の出費に困らないからか。 「ホクホクです!」 「冬服も揃ったしそうだろうな」 「ありがとうございます一条さん。 つくづく一条さんに拾ってもらってあたし運が良かったと思います」 「そりゃどうも」 それから別に目的などはないがデパートに行ってふと姫乃の足が止まった、何に注目しているのかと思えば映画の宣伝だった。  ああ、CMでもやってたさして面白くもなさそうな恋愛映画か。 こういうのってこの年頃の女子は好きなんだろうなぁ。 「観たいのか? まだ公開日じゃないけど」 「うーん、映画は観たいですけど眼鏡もコンタクトもお家ですし」 「なんか結構使いそうな物取り忘れてるよなお前って」 「なければないで別にいいんですけどね」 そういえば学校とかではどうしてるんだこいつ? 黒板とかちゃんと見えてんのかな?? 「姫乃は学校とかでは黒板見えてる?」 「見え辛いけどなんとか」 「やっぱ眼鏡かコンタクト買った方がいいんじゃねぇの?」 「そうなんですよねぇ。 ってこれは別に催促とかしてるわけじゃないですよ!?」 「今更遠慮してんのお前? そんなのわかってるよ、俺から言い出したろ?」 「そりゃあそうですけど服も買って貰ったし」 「ついでに眼鏡かコンタクトも買ってやるよ」 ああ、自分で言っててまた散財。 貯蓄するのが好きだった俺がなんでこんなことに。  すると姫乃が俺の腕に自分の腕を回してしがみ付いた。 「いいの?!」 とても嬉しそうな表情といきなり組み付かれたので一蹴硬直してしまう。 「い、いいけど?」 「あはッ! なんかもうずっと一条さんの家にお世話になりたい」 「そりゃ俺にお前の世話するお金があるうちだろ」 「金の切れ目が縁の切れ目っていいますしね。 なんて冗談です、本当にいいんですか? 今更だけどあたしこれまでのこと一条さんに返せるか心配になってきました」 「だから出世払いなんだろ? 期待はしてないけど。 それより人前でくっ付くなよ」 「いやーん、思わず抱きついちゃっただけなのに」 そうして眼鏡屋に行くことにした。 姫乃はコンタクトは使い捨てだし俺にお金が掛かるから眼鏡でいいと言った。 「これが良いかも!」 姫乃が選んだのは淡いブラウン系の丸っぽい眼鏡屋だ、それを俺に見せるように掛けてみた。 「一条さんの好みですかこれ?」 「姫乃がそれでいいと思えばいいよ」 「そうしてはぐらかす〜、でもまぁそういう反応だったら一条さんの好みみたいですね! これにします」 その場ですぐ出来るというわけではないので後日また取りに行くことになった。 「もしかしてあたしに眼鏡買ってくれたのは一条さんが眼鏡女子好きだからですか?」 「そんなわけないだろ」 「だとしたら純粋にあたしのために買ったってことですか?」 姫乃は俺の腕をツンツンと突いてにやついてる口元を隠しながら言った。 「お前またおちょくる気だろ」 「半分はそうですけどもう半分は…… ううん。 嬉しいよ一条さん」 純粋な笑顔を向ける姫乃になんだか胸の奥がズキリと痛むというか何か刺激されたようになった。 ダメだ俺惹かれるなよ。 「ねえ一条さん、今日は夕飯何食べたいですか?」 「何食べたいって…… 美味しいもの?」 「それってあたしの料理は不味いから暗にどこかで食べて行きたいってことですかー?」 「そんなこと言ってないだろ、それって自分の料理が美味しくないって自分で思ってるのか?」 「凄く美味しいとは思ってないですけどそこまで不味いとも。 たまに失敗するのは認めますけど」 「じゃあ唐揚げが食べたいかな」 「わあッ、一条さんの家に来てから作ったことないですね! 唐揚げが食べたいんですね?! じゃあ頑張って作っちゃいますあたし」 そして気合が入り過ぎたのか半生だったり揚げ過ぎたりな出来であんまり上手くいかなくて姫乃はへそを曲げてしまった。
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