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「こんな寒い時期に海に来るなんて」 「そうだな寒いな」 姫乃といろいろ回って遊んだ後なんとなく海に行っていた。  なんで海? なんて俺もよくわからないけど姫乃と遊んでて楽しかった。 年甲斐もなく学生の頃みたいだった、途中で俺は我に返って気持ちを落ち着かせるために多分海に来たんだろう。 ザアアッと波が押し寄せて引いていく光景を見ていると変に高揚していた気分も落ち着いてくる。 「でも日も暮れてきたし綺麗ですね。 あ、そうだ、すっかりタイミング逃してたんだこれ出すの」 「え? 何で今?」 姫乃が出したのはサンドイッチだった。  「だってお昼何食べますって言ったら焼肉にするか! とか言われたからあたしも焼肉食べたいなって思って」 「そっか、でもあるなら早く言ってくれよ」 「早起きして作ったんですよあたし。 はいどうぞ」 昼飯作ってきてたなら焼肉は余計だったかな? でもこいつも本当に食べたそうにしてたし今こうして食べてるしいいか。 「あ、それ美味しそう!」 「え? これ?」 自分で作って渡してきたくせに美味しそうとは。 「ほらよ」 「んがッ」 姫乃の口にサンドイッチを運んだがタイミング悪く閉じてしまった。 「もぉ〜、食べさせてくれるならあーんするんでちゃんと食べさせて下さい」 「悪い」 姫乃が口を開けたので俺はサンドイッチを姫乃の口に入れたが俺の指に姫乃の唇が当たりそうになって思わず手を離してしまった。 「んッ!」 サンドイッチの隙間からキャベツがパラパラと姫乃の胸元に落ちていった。 「勿体ない、なんで手をいきなり離すんですか!? 落ちちゃったじゃないですか」 「や、だって…… ゴメン」 ちょっと待てよ、なんで俺こいつにあーんされてサンドイッチ食わせてんだ? 違う、俺が最初にサンドイッチを食わせたんだ。 これじゃあまるでカップルみたいな食事風景じゃねぇか。 「服の中に入っちゃったぁ〜」 立ち上がって服をパサパサとさせ入ったものを落としてる姫乃の横顔を見てるとやっぱり俺はずっと昔の彼女…… 白城真琴をまだどこかで引きずってるんだろうなと感じた。 「なんですか? 口とかにも付いてます?」 「いいや。 それよりお前何食べさせてもらってんだよ」 「ほへ? あはは、いいじゃないですか。 もしかして照れたんですか? 一条さんのくせに可愛いんだ、お子ちゃまなあたしに照れてるなんて」 「うっさいな」  そうだ、何を照れてんだキモいだろ俺。 けどもし白城とこんな関係になれてたら俺は…… ほんと未練たらしいぞ、何年前のことだよ? それだけ白城にトラウマ持ってたのか?? 白城に似てる姫乃に何か感じるなんてバカバカしい、姫乃は姫乃だ白城とは違うんだろ。 「ねねッ! 試しに彼氏彼女ごっこでもしてみます?」 「はあ?」 「そんなに気構えなくていいんですよ、軽いノリなんですから」 軽いノリ…… 何気なく発した姫乃のこの言葉は白城と同じだった、それを聞いた俺はなんだか心の中にピシャッと亀裂音が走った気がした。 お前は白城とは違うんじゃなかったのか? 姫乃が…… 白城のことを何も知らない姫乃が白城と同じことを言った。 「一条さん?」 「帰るぞ」 「え? 一条さん!? 急にどうしたの?? まだサンドイッチも残ってるのに」 「いらない」 俺がそう言って立ち上がると姫乃は俺の服を掴んだ。 「待ってよ一条さん! あたし何か気に触ること言った?」 「別に。 帰りたくなっただけだ」 姫乃に顔を合わせずにそう言うと「わかった」と落ち込んだ様子の声色で姫乃は返した。 帰りの車の中では姫乃は俺に話し掛けるが俺は姫乃の言葉が素通りして何を話してたかなんてあまり記憶になかった。 俺がそんな風な態度を急に見せたからか家に着く頃にはすっかり姫乃もだんまりになってしまっていた。 「お風呂入ってきますね」 「そっか」 俺が素っ気ない返事を返すと姫乃は風呂場に入っていった。 シャワーの音が聴こえてくると俺は外にタバコを吸いに行った。 はぁ〜、白城とは何の関係もない姫乃に何してんだ俺は。 あれが大人の対応か? 頭を切り替えて謝れよさっきのこと。 姫乃も俺がああなるまで気分良さそうにしてたのに台無しにしてしまった。 タバコを消すと家に戻った。
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