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春、早いもので姫乃は高校2年生になっていた。 「おはよッのんのん!」 「おはぁ〜」 姫乃はいつもの2人と電車の中でお喋りだ。 少し離れて乗ってるが時折姫乃と姫乃の友達2人がこちらを覗き込んで話すのでなんか気になる。 「ねぇねぇ、いっちーもこっち来て話さない?」 そしてとうとう東谷が俺のところへ来てしまった。  やめろよな周りに人が居る前で。 なんか恥ずかしいだろ! 「シカト!? ねえ〜」 「わ、わかったよ」 グイグイ腕を掴まれたので仕方なく姫乃達が居る方へ移動した。 「あははマミちん強引〜! でもいっちーが来ないから仕方ないですよねぇ」 「お前らの中に俺居たら浮くから来ないんだよ」 「大丈夫大丈夫、誰もいっちーなんて見てないよ。 気にしすぎ〜」 そう言われると俺が自意識過剰みたいで更に恥ずかしくなるじゃねーか! 「いっちー、そういえばのんのんってこう見えてもピアノ弾けるんだ、しかも何気に上手いってゆー」 「そんなの知ってるよ」 「知ってんの!? ありゃ〜、これまたありゃ〜」 うぜぇ…… 「一条さん弄るのいい加減にしなよ2人とも」 「のんのん堅苦しい!」 「えッ? 何が??」 吾峠に言われキョトンとする姫乃。 「いっちーでいいでしょ、いっちーで! いっちーに一条さんなんて堅苦しい」 「だってお世話になってるし」 「だからこそもっと柔軟に!」 堅苦しいと言うよりか失礼だけどなお前ら、まぁガキだしこいつら。 「一条さんなんて呼んでんののんのんだけだよ。 ほらいっちーって言ってみないっちーって!」 「えッ!? ええ……」 この流れは…… 「なんかそういう風に言われるとちょっと恥ずかしいし今更だし……」 「ありゃりゃ、なんか照れちゃってるよこの子」 「うちらには見せない顔しちゃってぇ〜」 「揶揄わないでよもう!」 俺はこのネタだけで呼ばれたのか、虚しい。 「まったく言えばいいんでしょ言えば! 簡単だっての…… いっちー………」 物凄く消え入りそうな声で言われた、そんなに言い難そうに言った姫乃に俺らは黙る。 なんて返せばいいか…… 「な、なんで誰もリアクションしないの!?」 「いやー、そんなテンションで言われても。 あ! そうだ、じゃあいっちーが今度は呼んだげるって。 ねえ、いいですよねぇー?」 吾峠、余計なことを…… 姫乃をのんのんなんて呼べるか! だよな、姫乃? 「うッ……」 姫乃は俺をいっちーと言うのにはすごく躊躇っていたくせに何故かワクワクとした表情になっていた。 「一条さん呼んでみて!」 お前! 人にされて嫌なことは他人に強要しちゃダメだろ!! かと言ってこんなガキの言うことにいちいち動揺してちゃもっと舐められる。 そうだ、こいつらはガキなんだ、何も恥ずかしがることはない、サラッと言ってサラッと終わらせる。 これに尽きる。 「のんの……」 「あーーーッ!!」 「え?」 「どしたんマミちん」 「うちら降りるとこめっちゃ過ぎてんじゃん!!」 な、なんですと!? 「お前らバカなのか!? ああ、つーかマジかよこれ……」 「いっちーだって気付かなかったじゃん!」 「まぁ別に遅刻したってどうでもいいけど。 あ、なんならこのままサボっちゃう?」 「あたしは別にそれでもいいや」 こいつら3人ダメだ…… 「一条さんも一緒に遊びます?」 「俺はダメなんだよ! 社会人になったらそんな適当な気持ちでいたらそっこークビだぞ!?」 「いやーん、いっちーオヤジっぽいこと言ってる」 思い返せば電車の中でこんなに喋ってたらとっくに降りるとこ通り過ぎてんの当たり前だった。 まったく気付かなかった俺も俺だけど…… その後は病院に行ってから会社に行くということでなんとかなった。 「良かったね一条さん怒られなくて」 「良かったけど心臓に悪いからゴメンだ」 「でも一条さん楽しそうだったよ」 「は?」 楽しそうにしてたのか俺? だとしたらいい歳こいた大人がJK3人と仲良くお喋り…… 傍から見たらちょっと痛い奴かもしれない。
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