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「いやただの家出でしょ?」 「家出ですけど…… 違います、ただの家出じゃありません」 「じゃあどんな家出?」 「ただの家出です」 彼女は不貞腐れたようにそう言った。 ほらやっぱりただの家出じゃん、それより俺の家に歳がいくつかもわからない女の子を入れたとなればこの子の親御さんに訴えられるかもしれない。 「君は歳いくつ?」 「15です」 まだあどけない顔していると思っていたら15歳だったのか。 ヤバいな、ますます危ないぞこれは。 「じゃあ親も心配してるはずだから家に戻りなよ? 中学生だろ?」 「高校生です」 ちょっとムスッとされた。 「どっちも同じだよ俺からしてみれば」 「それにあたしの親なんてあたしのことは心配してませんので」 そんな親いるのだろうか? もしや虐待とか受けてたり?  「家族と喧嘩したとか?」 「そんなところです、なので家には帰れません。 だからあたしを泊めて下さい」 「ダメだ」 「即答なんて酷いです、食べ物恵んでくれたのに」 「食べ物くれる人にほいほいついていくなって教わらなかったのか? 危ない目に遭うかもしれないぞ」 「あたし何かされるんですか?」 「いや可能性の話だよ」 「あたしを餌付けしたのはお兄さんです」 餌付けって…… ペットじゃないんだから。 それにしても困ったなぁ。 「いいから自分の家に帰れ、俺は帰ってからも忙しんだ」 「邪魔しません、もしよろしかったら手伝いますし」 「なんでそんなに食い下がるの?」 「一食のお礼? です」 はあ〜、これは良かったのか悪かったのか。 それはそうとこんなところで長々と話していても仕方ないし誰かに怪しまれるのも面倒なので家に上げてしまおう。 俺が根負けしたと思ってか彼女は嬉しそうな顔をして俺についてきた。 「はいどうぞ」 「お邪魔します」 彼女は「おおッ」と小さく言って俺の部屋の中を観察した。 「そういや君の名前は?」 「あ、名乗ってませんでしたね。 音川 姫乃です」 「ふぅん、音川姫乃」 俺が彼女の名前を言うと今度はそっちですみたいな顔をされた。 「俺は一条 歩だ」 「じゃあ一条さんですね、よろしくお願いします。 あたしのことは姫乃でいいので」 「そうか、じゃあ姫乃何がよろしくなんだ?」 「ああ、いえ、なんとなく自己紹介したので。 それより忙しいって何かお仕事関係ですか? あたしにも何か協力出来そうですか?」 あ…… 忙しいなんてこの子を帰らせようと嘘言ったことだ、本当は暇なんだけどさ。 ん?? 目の前に数日洗い物をしないで流しに置きっぱにしていた皿などがあった。  ちょうどいいかも。 「じゃあそこの皿とか洗ってもらえるかな?」 「はい! ってうわぁ、一条さんって結構だらしないんですね?」 「ほっとけ」 実際だらしないけどな、帰ってもどうせ次の日仕事なんだからそのまま仕事着で過ごしてるしな。 「じゃあ洗っちゃいましょう」 「頼むな」 姫乃は鼻歌を歌いながら皿を洗っている。 んん? 俺ってまんまと家に上がり込ませてしまってるじゃないか。  こりゃ参ったなぁ、未成年だぞ? 親御さんにバレたら警察沙汰なんてことも…… いやそこは姫乃に頼んでこのことは内緒にしといてもらえばいいかな? ぶっちゃけ華のない生活を送ってて毎日暇でうんざりしてたからこういうのって悪くない。 でもこいつこのこと黙ってくれるかなぁ? 「なあ姫乃」 「なんですか?」 「こうしてたこと親には黙っててくれるか?」 「いーえ、普通に言いますね」 「なん…… だと!?」 なんてあっさり言いやがるんだこいつ、俺の社会的立場が…… 「一条さんは今おいくつですか?」 「25だけど?」 「それじゃあ未成年のあたしを拉致監禁。 こんなのバレたら一条さんはきっと……」 「お、おい! それはないだろ!?」 ヤバい、こいつ思ってたよりずっと性悪かもしれない。 やっぱり罠だったのか? 「んー、でも一条さんがあたしが満足するまでここに置いてくれたら何もいいません」 「何!?」 「しかもその間あたしだらしない一条さんに代わって家事してあげてもいいですよ?」 一見俺にとっても都合の良い話、けどこいつが居なくなったら親が捜索願いとか警察に届けるかもしれない。 「んなこと言ってもお前ここで暮らすには生活用品とかいろいろ掛かるだろ? 女の子だしほら」 「あー、なんかセクハラ発言されそうですねぇ」 「だってそうだろ?」 「じゃああたしが家事するのでその報酬としてあたしに必要なもの買って下さい」 「嘘だろ……」 こんなだらしない俺でも一応貯金はしている、姫乃が必要な物だって別に買えないわけじゃない。 が、いくらタイプの子だと言ってもこんな得体の知れない奴に金を注ぐなんて金をドブに捨てるようなもんだ。 「拉致監禁」 「わかったわかった! 買ってやるから」 「あはッ、だったらあたし頑張って一条さんのお世話しちゃいます」 「どっちが世話する羽目になるんだか」 あどけない顔して何気に性格悪いぞこいつ。
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