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「歩ちゃん」 「うるさい」 「歩ちゃん」 「だから真似すんなって」 うちの親が帰った後姫乃のツボにハマったのか歩ちゃん呼びになっている。 あのクソ親父…… いつまで経っても歩ちゃん呼ばわりは恥ずかしいからやめろってあんなに言ったのに。 「面白い人だったね、あゆ君のお父さんって」 「やめろよ、あんなのなかなかいないレア生物だ」 授業参観の時も母さんはともかくあいつまで来てマジで恥ずかしかったんだぞ。 「あゆ君のお父さんお母さんもいい人なんだねぇ、いきなり別れなさいなんて言われた時はどうしようって思ったけど話してみたらちゃんと聞いてくれたし」 「いい人ねぇ…… あれとずっと暮らしててウザいしか俺は思わなかったけどな、そういえば角谷の家の親も優しかったんだろ?」 「まぁそうだけどありがったけどあゆ君の親じゃないし」 「なんだそりゃ?」 「あたしが好きなのはあゆ君であって竜太のことじゃないしあゆ君の方の親の方が大事なことなの!」 姫乃は「なんでそんなの訊くの!?」と少しご立腹な様子だ。 「わかったから」 「あゆ君! あたし! あたしね…… えっと……」 強めに俺に何か言おうとした姫乃だったが何故か口ゴモる。 「な、何か?」 「あッ…… うん」 どうしたんだ姫乃のやつ…… と思った瞬間姫乃はテーブルに額を打ちつけた。 「なッ!? 何してんだお前??」 「いたたた…… あ、頭を冷やそうかと思って」 「逆に痛くて熱くなるんじゃ?」 「それはそうとお前って進路とかどうすんだ?」 「そ…… それがなんだけど、まだやりたいこととかなくて。 将来なんてのも今までどうでもよくて考えたことなかったんだけど今は漠然とこうなれたらいいなぁというのならあるけど」 「ほうほう、その漠然とした目標は?」 「それは…… 」 姫乃は再度テーブルに額をぶつけた。 「何回やるんだ!? お前おでこ赤くなってるぞ、それに地味に響くからやめろそれ」 「お、お風呂入ってくる」 そして姫乃はそそくさと風呂に行ってしまった。 それにしてもうちの親が来るなんてな、もしかしたら金銭面でのサポートも…… ってそんなのダメだろ、彼女が出来たからすねかじりなんてカッコ悪過ぎだ。 姫乃の進路か。 もう12月になる、姫乃も来年は3年生だ。 あいつは進学するのかそれとも就職なのか…… 姫乃の親はどこまで姫乃のことを考えてるんだ? いや、考えてないのかもしれない。 そうだとしたら高校を卒業したらこれまでよりまったく無関心になってしまう可能性もある。  でも一度話し合った方がいいか? うーん、姫乃の親なんて俺も会ったことないんだよなぁ、話を聞く限りはろくでもないやつなんだろうけど。 「あゆ君ちょっとちょっと! 助けて!!」 そんな時風呂場の方から姫乃から俺を呼ぶ声が聞こえた。 助けて!? 何かあったのかと俺は急いで駆け付けると全裸で泡にまみれた姫乃が俺に抱きついた。 「は!? な、なんだ??」 「そ、そこにゴキブリ!!」 見ると風呂場の天井の近くに確かにいた。 「シャワーで落とせばいいじゃん」 「やッ! こっちに落ちてくるかもしんないじゃん!!」 それよりお前が全裸な方が気になるけど…… 「とりあえずお前風呂から出てろよ、俺が処理しとくから」 「うん…… あッ!」 姫乃は今頃裸なのを気にしたみたいだ。 「あは…… お見苦しいところを。 あゆ君的にはラッキーだったり」 「いいから出てろって」 ああ、でも付き合ってるからいいのか?  「終わったぞー」 「ありがとあゆ君」 姫乃が来るとタオルを巻いていた、良かった。 「あのさ、一緒に入る?」 「ッ!? いやいい」 「なんで?」 「恥ずかしいから……」 「あははッ、女の子のセリフだよそれ」 うるせぇ、こっちが裸になって俺のあれがビンビンなったら絶対恥ずかしいだろ、女にはわからんだろうけど。 あれ? でも付き合ってるなら問題ないか?? 姫乃が風呂に入り直して抱きつかれた時泡が付いた服を着替える。 でも今の姫乃から誘ったんだしすんなり一緒に風呂に入れる絶好の機会だったんだよなぁ。 惜しいことしたみたいでひとりでモヤモヤとしていた。 「お待たせー、あゆ君も入りなよ」 「おう…… ってなんでバスタオル巻いたまま出てくんだよ!」 「さっきのあゆ君の反応が面白かったから。 ふふふ、サッと手を離したらタオル落ちちゃいそう」 「さーてとっとと入ろう」 そう言われたので無反応で風呂に入り上がると姫乃は少しムスッとしていた。
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