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「な、なんだその見事なフォルムは……」 「これが私の気持ちですッ!」 会社から帰って来て玄関を開けるとなんと姫乃が土下座スタイルで玄関前に居た。 「いつからそれしてたの?」 「つい今足音聴こえたから」 「というよりそれって何?」 「実は……」 姫乃は進路について迷っていたがとうとう自分のやりたいことを見つけたらしい。 「あたし料理の専門学校に行きたい!」 「ほぉー、いいんじゃない? それでなんで土下座したの?」 「そ、それは…… 高校卒業してもあゆ君のお世話になりそうだったから。 あたし何ひとつお返ししてないのにまだ負担かけちゃうんだなって」 「なんだそんなことか、別に負担だなんて思ってないし」 「ほんと!?」 「ああ」 姫乃は俺の頬に頬擦りしてきた。 「な、なんだよ?」 「あゆ君〜、なんだか凄く甘えたいッ」 「いつもだろそれ、ていうかなんで料理?」 姫乃が作る料理はたまに凄く美味しいけどたまにとんでもない失敗料理を振る舞われることがいまだにある。 「好きな人に料理を振る舞って美味しく食べてもらう! それ以外ありますか!?」 「…… え? 料理人なってその手の専門系の店で働きたいとかじゃなくて??」 「あ、うん、それもあるね」 「いやお前今ハッとしただろ!」 「と、とにかくあゆ君に毎日美味しいって言われるまでは人前に出せるレベルじゃないから! そのためにもあたし料理のお勉強したいッ!!」 今の流れで大丈夫か? と思ったけど特にやりたいことなんてないって言ってた姫乃が燃えているので多分本気なんだろうが…… 「あ、ほら、ピアノとか上手いじゃん姫乃って。 音大とかって手もあるんじゃ?」 「あー…… あたしなんか上手いって言ってもそこら辺の砂利レベルなんでダメだよ、ただのストレス解消みたいになってるだけだし」 「それってピアノしてればストレス解消になってもし極められたとしたらそれで食っていけて尚且つ身体にいいのでは?」 「あ、あゆ君…… 」 「ん?」 「目からウロコ…………」 いやそんなんでマジで大丈夫なのかよ? けどまぁ姫乃は料理を選んだようだ。 それから姫乃は少し手の込んだ料理をするようになった。 「ジャーンッ! 今日はドリアでーす!」 「ああ、なんか某ファミレスで食べたことあるなそれ」 「見様見真似で作っちゃいましたー!」 「どれどれ…… うッ!!」 「まい…… ?」 「不味い…… これ味見したか?」 「う、嘘?! 出来立てでこれから味見しようとしてたらあゆ君が帰って来て熱いうちに召し上がれって…… うわぁ、ホントに不味い」 言ったそばから出鼻を挫いていくスタイル…… 「ま、まぁこんな時もあるよ、万が一不味いかもと思って保健的な意味でコンビニでドリア買って来たしこれチンしようね!」 「お、おう…… まぁ確かにこんな時もあるから気にすんなよ」 だがその次もそのまた次の日も姫乃が作る料理はことごとく不味くなっていった、しかも不味さのレベルが上がっていった気さえする。 「ひ、姫乃……」 「ご…… ごめんなさい」 それはまたもう何日かぶりに見る見事な土下座フォルムで玄関前に姫乃はまた土下座していた。 「あたしダメかも」 「いやいや、何が?」 「得意げに料理の学校行きたいなんて言っておきながら作る料理が全部不味いってあたしどうしたらいいの?」 姫乃はすっかり自信を無くしていたようだ。  けれど見ていてなんだか根詰めすぎというかなんというか空回りしていた感は若干していた。 「姫乃、どんな気持ちで料理してる?」 「絶対失敗したくないって」 「なんで?」 「だって…… あたしこれ以上あゆ君にガッカリされたくなくて。 前は下手は下手なりでもそれなりに出来てたのに」 「姫乃、だったら失敗してもいいからその…… なんだ、俺が美味しいって食べてるのをイメージして作ってみたらどうだ?」 「いつも思って作ってるよ…… なのに」 「だからさ、料理の学校に行かなきゃとかそんなの考えないでいつものようにさ」 「う、うん」 その次の日から姫乃は変に凝った料理をしなくなった。 ごくありふれた普通にサッと作れちゃいそうな料理。 「ど、どうですか?」 「普通に美味しい」 「ホント?!」 「ああ」 「よ、良かったぁーッ!」 やっぱり姫乃は気負い過ぎていたんだと思う、軽い感じの見た目と違って結構思い詰めるタイプだからな。 「あゆ君、こっちもこっちも!」 「うん、こっちも美味い」 食べてたら姫乃がウルウルと目に涙を溜めていた。 「いやお前大袈裟だって」 「だってあたし料理すらまともに出来ないダメ女になっちゃったかと思ってぇ〜! こんなんじゃあゆ君のお嫁さんになれないって本気で落ち込んで」 「…… え?」 「あッ………… ド、ドン引き?」 「い、いやちょっとビックリして」 お嫁さん?? 姫乃が俺のお嫁さん? ええッ!! 「ビックリってドン引きな意味で…… ?」 「そっちじゃなくて姫乃って俺みたいなのでも良いのかって意味で」 「…… あゆ君以外あたしに誰がいるの?」 「もっとかっこよくて年収ある奴とか」 「そんなのどうでもいい、あゆ君離さないって言ってくれた」 「ああ、うん……」 俺…… 姫乃からプロポーズされたんだよな? まだこいつ高校生なのに。 マジか?? 「あのさ、仮に俺と結婚考えてても贅沢な暮らしとか出来ないぞ? だって安月給だし」 「どうでもいいって言ったじゃん、あたしも頑張るし! それに仮とかじゃなくて本気です」 「でもまだ姫乃は高校生だし」 「うん、だからモヤモヤする、早く大人になりたい」 俺は病院で姫乃とずっと離れたくないと思った、けれど結婚とかそういうのは頭になかった。 だが裏を返せばその思いは俺も姫乃とそうなりたいっていうことで。 「ま、まぁ姫乃が俺と結婚したいなら姫乃の意思だし俺はとやかく言うことじゃないな」 「あーーッ! なんか凄く上から目線な発言に聴こえた! 惚れた弱味につけ込まれた感」 「あはは、ごめん。 俺そういうの耐性なかったから」 「はぁ、もっと…… もっとそれっぽい雰囲気で言おうと思ってたのにあたしってバカだ」 そこまで姫乃も考えていたなんて。 けれどそれはそれで姫乃の親のこともあるし波乱の予感がした。
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