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同じ人から二回も振られたのは
若い頃、ある男性のことを好きになりました。
その人はとても頭がよく行動的で、お喋りも楽しく物知りで、私の目にはいたく魅力的に映りました。彼は恐らく誰にでも親しく接する人だったのでしょう。私にもとても親しげに接してくれたものでした。
はじめこそ友人として大好きになりましたが、周囲の人々が私と彼がいい仲なのではないかとからかい始め、笑って過ごしている間に「彼は私をどう思っているだろう」と意識するようになりました。
ある日、思い切って彼にメールしました。当時はまだSNSは存在せず、友人との連絡はeメールだけしかなかったのです。いつものように面白おかしいメールではなく、真剣に私のことをどう思っているか尋ねました。
彼からの返信は、とても冷たいものでした。私のことをどう思っているかは一言も書いておらず、ただ彼自身がその気がないことをありありとうかがわせる冷ややかな内容の一行メールでした。
私は振られたのだ。
そう自覚するまで、しばらくの日数を要しました。そして私は、心のどこかで「結婚」を深く意識していたことに、遅まきながら気づきました。恋愛結婚が当然だと思って育ちましたから、適当な年齢になったらいい人に巡り会って結婚するのだろうなと。私は当時、30歳に近づいていました。
けれども振られてしまったのです。結婚以前に恋愛対象としても見てもらえていませんでした。
私は運よく現れた別の男性と結婚しました。私を振った彼にも報告をしました。が、愛のない結婚でした。心労で鬱病になってしまい、すぐに離婚しました。
結婚報告をしたのだから、離婚も報告しておかねば。疲弊した頭を抱えつつ、離婚した旨メールで伝えました。返事などくるわけがないと期待もしていませんでした。
ところが翌朝には彼から返信が届いていました。私の病気を気遣いながら、今度ドライブでも行こうと誘ってきたのです。離婚と病でぽっかり空いた心の穴に、彼はあっさりと入ってきました。
それ以来、私をいろいろな場所へ車で連れて行ってくれました。私には当然ながら「デート」に感じられました。もともと彼のことを好きだったのです。再び彼を恋しく思うようになるまで時間はかかりませんでした。
なのにある日、私はまた彼に振られました。携帯の通話で。
彼は私に一人で生きてほしいと言いました。もう会えないと言われました。私は疎まれていました。彼は私を厄介者のように感じていたのです。そのようにこの耳は確かに聞きました。私の依存性に辟易しているような口ぶりでした。
ほどなくして、彼は別の女性と結婚しました。
最初に振ったのは正しい行動だったのでしょう。私のことをなんとも思ってはいなかったのですから。
しかし二回目の行動はどうだったのでしょうか。彼は私に親切心で遊びに誘ったのかもしれませんが、離婚して傷ついている女性(しかも一度振った女性)に優しい声をかけるべきだったのでしょうか。どうせ、また、振るのに。どうせ、好きでもなんでもないのに。
彼を責めるつもりはありません。けれども私にも心があります。彼の知らないところで、彼に対して傷つき、腹立たしく感じたって私の自由でしょう。どうせもう二度と、人生は交差しない人なのですから。
同じような振りかたを二回も繰り返した彼にも、深い落ち度があったと感じないではいられません。
あれから長い年月が経ちました。今では「あんなこともあったな」という程度の思い出です。私はあのとき学びました。
偽物の優しさなど、なんの役にも立たないことを。
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