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眠りから目を覚まさせたのは激しく鉄製の扉が叩かれる音だった。 場所は公民館。 つまり夢でのことが現実となっている。
「みんな! 逃げるんだ!!」
鉄製の扉のため外を窺うことはできないが、ゾンビが大量にいるのだろう。 大人の声により施設の人は次々と目覚め、慌ただしく駆け回る。 自分の家族を守るため必死で扉を防ごうとする者もいた。
それを見て信晴が言うのだ。
「・・・俺も行ってくる。 三成は先に逃げて」
夢に抵抗することがどのような結果をもたらすのか三成には分からない。 だがこのまま行かせては信晴が死ぬのが恐らく確定してしまうだろう。 母ももしかすれば助けられる可能性もあった。
しかし、対策を取らなかったため母は死んだ。 そして信晴を同様にしてしまうつもりはなかったのだ。
「・・・行かせない」
そう言って信晴の腕を掴んだ。
「アイツらに両親を喰われて、すっげぇムシャクシャしてんだよ。 今なら怒りをぶつけられそうなんだ」
「行けば死ぬとしても?」
「・・・え?」
三成は信晴の腕を掴む手に力を込めた。
「・・・僕さっき、夢を見たって言ったじゃん」
「あぁ」
「もうその光景を疑いはしない」
「・・・どういうことだ?」
「兄ちゃん、扉を守りに行っても無駄死にするだけだよ」
「・・・それ、本当か?」
「誰も守ることもできず、ただ無慈悲に振り下ろされたゾンビの腕に身体を半分持っていかれていた」
「ッ・・・」
「嘘じゃない。 予知夢に抗うことができるのかは分からないけど、今兄ちゃんの言った言葉は夢で聞いた言葉そのままだった。 それを確かめたくて、さっきは夢の内容を話すのを止めたんだ」
「マジかよ・・・」
「だから兄ちゃんを行かせることはできない」
信晴は三成の言葉を聞いて悩んでいた。 だがこれまでのことを考えれば、三成の言葉は何よりも優先しなければならないと決断してくれたようだ。
「・・・分かった。 逃げよう」
「え、それじゃあ・・・」
「あぁ。 俺は三成を守らないといけないからな。 無駄死にはできない」
「ッ、うん!」
二人は必要なものをまとめ窓から逃げ出すことにした。 それと同時に扉から雪崩のようにゾンビが侵入してくる。 信晴は三成の言葉を信じたことであることを悟った。
「予知夢に抗うことも可能なのか・・・?」
窓から逃げ出した人は二人の他にもかなりの人数がいた。 しかしリーダーを失ったように散り散りに逃げていく。 目の前で何人もの人が殺されていった。 今度は逃げる先に当てももないのだ。
「・・・やっぱりもう、駄目なのかもしれない」
信晴が初めて弱音を吐いていた。
「兄、ちゃん・・・?」
「父さんも母さんも死んで、ゾンビはあんなにもたくさんいて。 ・・・いくら三成の予知夢があったとしても、もうどうしようもないよ」
信晴は泣いていた。
「兄ちゃんッ・・・」
信晴につられて三成も泣きそうになる。
―――・・・駄目だ、僕も泣いていたら。
―――兄ちゃんがくじけそうな時は、僕が頑張らないと。
今まで信晴がしてくれていたかのように今度は三成がギュッと信晴の手を握り締めた。
「僕が夢を見れば何とかできるかもしれないんでしょ?」
「三成・・・」
「だから兄ちゃん、諦めないで」
強い眼差しでそう言うと信晴は小さく頷いた。
「・・・あぁ、そうだった。 俺にはまだ三成がいたもんな。 すまない」
そう言って頭を撫でてくれる。 そんな二人に背後から迫る影があった。
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