朝暮島

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二人がゾンビの襲来に気付いた時には既に手遅れだった。 「兄ちゃんッ!」 ゾンビは攻撃態勢に入っていて逃げられるような時間はない。 それを悟った信晴は三成を守るため両手を広げ仁王立ちになった。 「俺が時間を稼ぐから、その間に三成は逃げろ!!」 「え、そんな、嫌だよ! 僕一人じゃ、絶対に、無理・・・ッ」 ―――このままだと、結果的に夢と同じになっちゃう。 ―――やっぱり夢で見た結果は変えられないの・・・? 「俺はさっき三成に勇気をもらった。 くじけそうになったのを、踏み留まらせてくれたんだ。 だから今度は俺の番・・・ッ!」 三成は信晴に突き飛ばされる。 「嫌だよ! 兄ちゃんッ!!」 ゾンビが信晴に襲いかかろうとした瞬間だった。 「・・・え?」 信じられない出来事に目を見張ることになる。 映画やアニメのように思えるが、確かにそれは起きたのだ。 燃える火の玉がゾンビの上半身を吹き飛ばしていた。 「な、何が起こったの・・・?」 「分からない・・・」 「お兄ちゃんは助かったの?」 信晴は思考が追い付かず唖然としたままだった。 二人のもとへ一人の青年が現れる。 「二人共、無事でよかった」 「・・・今の、お兄さんがやったの?」 「あぁ。 怖がられるかもしれないけど、僕は何故か炎が出せるんだ。 といっても、それができるようになったのはつい最近なんだけど」 その言葉に信晴は食い付いた。 「つい最近できるようになった、特別な力って・・・。 もしかして、三成の予知夢と同じようなものか・・・?」 「予知夢? 君も何か特殊な力があるのかい?」 青年の名前は一吉。 簡単な自己紹介をすると共に三成の力の説明をした。 「へぇ、それは凄いね。 しかも未来を変えることもできるなんて・・・。 僕たちの力を合わせれば、もしかしたらこんな絶望的な状況でも何とかできるかもしれない」 一吉は何か事情を知っていそうな言いようだった。 だが表情に影が落ちている。 「お兄さんは、どうしてこんなことになったのか知っているの?」 「・・・まぁね」 一吉は一段と顔色を暗くした。 それを見て信晴が言う。 「言いにくいことだったら聞かないけど」 「いや。 ・・・信晴くんたちにも協力してもらうとなれば、秘密にしておくわけにはいかないと思うから」 一吉の言葉が真実かどうかは判断できない。 だが語られたのは可能性を感じる言葉だった。 「実は奇病を治す特効薬は、僕が作った、それも僕の血液から作り出したものなんだ」 「は!?」「え!?」 三成と信晴の言葉が重なった。 「僕は一度、この島で流行った奇病にかかっていてね。 自力で治癒した最初の人間だった。 だから治った僕の血液には抗体が存在する。 それを研究し、量産体制を整えたのが特効薬の礎になったんだ。  ・・・そして薬は効き、奇病は終息に向かうと思われていた」 静かにそう語った。 だが実際に起きているのは映画のようなゾンビパニック。 何か思いもかけないことが起きてしまったのだ。 「病気は治ったけど、別の症状としてゾンビ化したということか・・・?」 「察しがいいね。 おそらくはそういうことだ」 一吉は視線をそらして言った。 「臨床試験が圧倒的に足りていない状態での断行。 奇病の流行は世界の終末に繋がると言われていたから仕方がなかった。 現に奇病の流行は治まったからね」 「そうか・・・。 そう言えば、三成も自力で治癒だったよな?」 そう言って信晴は三成を見る。 三成はこくこくと頷いていた。 地獄のような苦しみからようやく生還し、特効薬がその後に誕生した。  もう少し早ければこんなに苦しまずに済んだのにと何度も考えたが、結果的にはそれでよかったのだ。 「薬に頼らず自力で治すしか、生き残る術はなかったということか」 「君も自力で? もしかすると、自力治癒した人間に不思議な力が宿るのかもしれない。 ・・・だけど確証はない」 「今のところ二人だけだから。 それに他にも病気が治った人はいると思うけど、そんな話は聞いたことがない」 実際に自力快復者の話を聞いたこともない。 もしかしたら二人だけしか自力で快復していない可能性もある。 ―――治った人がいるって病院の先生が言っていたけど、それは一吉お兄ちゃんのことだったのかもしれない。 他に特別な能力を持つ人間がいたら協力してほしいと思う。 しかし不確かなことに時間を割いてはいられないのも事実。 結論として三人は三人だけで行動することに決めたのだ。 「そうだね・・・。 とりあえず三人で何とかしないと。 研究所に行きさえすれば対処できると思うんだけど、僕が持っているパスが使えなくなってしまったんだ」 「じゃあどうすれば・・・?」 「病院に研究所の最高責任者が入院している。 いや、入院していた。 その人の持つマスターキーなら研究所に入れると思う」 「病院って・・・」 「そう。 病院はゾンビが最も多く生息してると思われる場所。 しかも所長はおそらくゾンビになっている。 リスクが高過ぎるかもしれない」 「でも行かないと。 それしか方法がないんだから!」
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