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明るくなるのを待ち三人は移動を始めた。 一吉がゾンビを倒せるといっても無制限なものではないらしい。
「それじゃあ、なるべくゾンビには会わない方がいいのか?」
「そうだね。 三成くんの予知夢には疲労とかは伴わないのかい?」
炎の能力については使えるようになってから色々と試してみたらしく、大体一度使うと10秒程使えなくなり、連続して10回程使うと体力を消耗し休憩しなければ動けなくなってしまうらしい。
だがそれでもないのとあるのとでは大違いだった。
「起きたら寝汗が酷かったりするから、睡眠を上手く取れていない可能性はあるのかもしれない。 でも、今のところは大丈夫」
「そっか、分かった。 あまり無理しないように、と言いたいところだけど今は三成くんの力は頼りになる。 もっとも自分の意志とかは関係がないのかもしれないけど」
町の様子は散々で多くの家が破壊されている。 食料調達も当然必要だし、ゾンビの警戒を解けないということでやはり歩みは遅い。
「アンタら、どこへ行くんだ? なるべく大勢でいた方がいいと思うぞ」
そんな中話しかけてきたのは、いつぞやお世話になった駐在のおじさんだった。 制服を着ているがそれもボロボロ。 何人かが後ろに付いて怯えている。
「僕たちは病院を目指します」
「・・・ッ! 病院だって!? ゾンビがどこから来たのかも知らないのか? 山の方からやってきているんだぞ!」
「それでも行かなくてはいけない理由があるんです。 それもできるだけ早く。 一人でも多く無事な人がいるうちに」
「何か当てでもあるのか・・・?」
「不確かなことにお約束はできませんが。 絶望の中の、僅かながらの光明といったところでしょうか」
「・・・そうか」
一吉とおじさんが話しているのを三成と信晴はジッと眺めていた。 他の面々は明らかに疲弊していて、限界が近いように思える。 信晴は三人の中で言えば、最も役に立てないと自分で思っている。
そんな自分に何ができるのかを考えた結果三成に提案した。
「三成」
「何?」
「三成は俺の背中で眠っていてくれないか?」
その頼みに三成は少々困ってしまう。 試したことはあるが、緊張状態では眠ることができなかったのだ。
「こんな状況で眠れないのは分かっている。 ただ俺の背中で休んでいてくれたらいい。 そのうちに睡魔が訪れてくれればそれでいい」
公民館で休んだとはいえ、昨日から緊張状態で歩きっぱなしで疲弊した。 それが全て回復したわけではない。 それは当然兄も同じだろう。 なのに自分を負ぶって歩くと言ってくれているのだ。
「・・・分かった」
その言葉で信晴は三成を背負う。 それとほぼ同じくして一吉の話が終わったようだった。
「さぁ、行こう。 頑張ってくれって、これをくれたよ」
小さな袋に缶詰やペットボトルなどが入っている。 彼らにも必要なのにこの緊急事態に分けてくれたのだ。
「警察の自分が盗みに入っているって、笑っていた。 今はそんなことを気にするような状況じゃないのにね」
「おじさんたちはどうするって?」
「明るいうちに隠れる場所を探すって。 できれば彼らが無事なうちに何とかしたいものだ」
一吉と信晴は歩き出す。 三成を負ぶっている理由が分かっているのか一吉は何も言わなかった。 そして、長い時間を病院に向けて歩く。 明るいとはいえ、何故かほとんどゾンビと出会うことがなかった。
そのおかげか一定の振動が心地よく作用し、次第に三成は眠りにつき夢を見ることになる。
どうやら無事に病院へと着くようで舞台はナースステーションのように思えた。 だが何故か一吉と三成の姿しか確認できず信晴がいない。
周りにゾンビがいるような雰囲気はないし、逸れて探しているようにも見えなかった。
「えっと、所長の入院している部屋は・・・」
一吉はパソコンで所長の入院している部屋を探している。 三成はそれを覗き込んだり、周囲を注意してみたり、机の下に隠れたり自由に動いている。 その時に彼らにゆっくりと迫るモノがいた。
それは一体のゾンビで丁度二人はそれに気付いていない。
「ッ!」
一吉はモニターが暗転した瞬間、画面に映ったゾンビの姿を見て咄嗟に炎を放った。 既に距離を詰められており予断を許さない状況だった。
「危ない! 隠れてッ!」
一吉は自分の身体で三成を守りつつ周囲も警戒した。
「ぐッ、がッ・・・」
放った炎は肩口から左腕を大きく吹き飛ばし、ゾンビはゆっくりと崩れ落ちていく。
「危ないところだったな・・・」
それは確かにゾンビだった。 だが背丈も低く子供のゾンビでもある。
「み・・・つな・・・り」
「・・・え?」
転がったゾンビが確かに自分の名を呼んだ。 一吉の背中からこっそりと様子を窺う。
―――このゾンビ、何かがおかしい気がする・・・。
―――いつもは腕や足が取れても攻撃を止めないのが、今までのゾンビの動きだった。
―――だけどこのゾンビは、これ以上に攻撃をしてこようとしない・・・。
それに何故名前を知っていたのだろうか。 喋るゾンビを見たのもこれが初めてだ。
―――あれ、そもそもゾンビって意識があったっけ・・・?
―――ゾンビはただ人間を食べるだけの存在だ。
―――でもこのゾンビは、他のゾンビのように僕たちを襲ってきたわけではなかったような・・・。
三成も一吉も背後からゾンビが迫っていたことに気付かなかった。 普通なら大きな呻き声を上げて迫ってくるはずなのだ。
―――最初から、僕たちを襲うつもりはなかったのかな・・・?
「まさかッ!」
三成は何となく嫌な予感がして吹き飛ばされたゾンビの腕を確認した。
「これ以上近付いたら危ない!」
一吉の言葉を無視し少しずつゾンビに近付いていく。 その悪い予感は的中し、破れた衣服に三筋の傷跡、自分を守るために信晴が負った傷と完全に同じだった。
「にい、ちゃん・・・?」
「・・・つ・・・なり・・・」
「ッ・・・! ああぁぁぁぁぁああああ!!」
そこで夢は途切れた。 呼吸が荒く、その様子に信晴はすぐに気付く。
「三成! 夢を見たのか?」
今も背負われていてまだ病院には着いていない。 予知で見た場所がまだ先であるということに安堵する一方、夢の内容に絶望していた。 隣には一吉も心配そうな表情でこちらを見ている。
言うか言うまいか迷い、結局首を横に振る。
「・・・ううん」
信晴がゾンビにやられるとしたらそれを回避することはできるだろう。 しかし、見えたのは既にゾンビになった後のことなのだ。
どうしてゾンビになったのか分からないが、その瞬間を見ることはできなかった。
「・・・そうか。 まぁ夢なんて、常に見られるわけじゃないからな」
そうは言ってくれるも信晴だって今の状態の三成を見て気付いているはずだ。 一吉も何かを感じたのか三成のことをジッと見ていたが、何か言ってくることはなかった。
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