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2(11〜25)
雨が長く続き、外で駆け回る事もできず、時折父のもとに訪れる長老達の話を片耳に聞きながら過ごす日々が続いていた頃。
「大巫女様にお伺いを立てる頃ですなぁ」
大巫女様という名はたびたび耳にして記憶していた。この国での大事な日を決める時に、父が国の長老達と共に大巫女様のもとに足を運んでいた事は何となく知っていた。特に、日頃の話から、田植えの時期をいつにするのか、というのが此度の決め事のようであった。
「長老役、それについてだが、お伺いの日をいつにすべきか尋ねに伺ったところ、明日以降の雨落ち着く日隠れの時に集まるようにとの仰せであった。
そこで、他の長老への触れ回しをお願いしたく足を運んでもらった次第だ」
「長老方への触れ回し、わかりました。されば、大長老と他の長達には王様がなさるということでよろしいですかな」
「ああ、通例のごとく。豊作祈願の宴が急ぎでも催せるよう、祭事官に先に知らせ伝えるように致そう」
「それがよろしいでしょうな…。
…よっこらせっ。
それではまたお伺いの日に」
翌日の昼。まだ雨は落ち着いていなかった。耳にしていたからか、天気の動向がやけに気になっていた。特に自分が何をするわけでもないのだが、暇潰しでできることなど寝るか話すかくらいしかなかったからだ。
「父様、まだ雨がやまないね」
父は繊維草を噛みながら外を眺めていた。
「いや、上がる。祭事官の所へ行ってくる」
父は口に溜まった草を吐き出すと、残りの繊維草を口に咥えたまま雨の中を駆け出した。
「行ってらっしゃい」
皆で父を送り出すと、母に尋ねた。
「どうして父様は雨がやむってわかるの?」
父が眺めていた所を同じように見つめてみるが、自分にはわかり得なかった。
「天が教えてくれるのよ。国の王には天が味方してくれる人しかなれないの。ジンバはまだ小さいからわからないかもしれないけど、父様の血を継いでいるお前ならいつかその天の力を感じる時が来るはずよ」
母の声は優しかった。だが、その答えは想像していたものと違うものだった。父との初めての狩りの日の感覚が無意識に呼び起こされた。
「ねぇ婆様っ。父様もわからなかった?いつからわかるようになった?」
必死に不快感を押し殺しながら、父祖母の背中に抱きついた。五感で得られる父祖母の存在に少し安堵を覚えた。
「いたたた…。ジンバ、もう少し優しくしておくれ」
しかし、自分は離れることはできなかった。
「ジンバっ、婆様にそんなことをしてはダメっ」
母は大声で怒鳴ると、頭を平手で打った。
「サナ様、国の王子はこれくらい元気でなければ務まらないよ。国の長になろうとしているからこそ、たぶんサナ様の先程の言葉にジンバは不安を覚えたんだろうさ。
ジンバ…」
父祖母は、父祖母の首に巻き付いた腕を優しくほどくと、目の前に座るように促した。
「これは前の王様ヤサヅチ様、ジンバの父様の父様の言っていたことだがね。
2人の時を過ごしていた時によくこんな事を言っていたよ。
天は自分に味方しているのか、それとも災いをもたらそうとしているのか、悩むことが多いと。生まれたばかりの弟は殺され、父も殺された…。王位を継承して王子が生まれた時は天命を得たと思った。更には連合国に入ることで国も幸せになるだろうと…。だけど、その後すぐに王子は亡くなってしまった。そんな悲しみの数年後に今の王様、ウガタ様が産まれたんだ。
ヤサヅチ様は言っていたよ。
天は言葉として何も自分に教えてくれなかったが、今を思えば天は常に味方してくれていたのかもしれないと…。
ジンバには少し難し過ぎる話だったかもしれないが、今から大事なことを言うからよく聞くんだよ。
不安な時は自分の心を信じるんだよ。心は天に通じている…。自分の心を信じていれば、天は必ずジンバに味方してくれるはずだからね…。
ジンバにはジンバに与えられた天命がある。まずは自分を信じなさい」
信じる…。よくわからなかった。父祖母の言葉も自分にとって期待していた答えではなかった。だが、先程の不快感は少なからず打ち消されていた。
その日。眠りに就くその時まで妙に身体が重くなった。何度も父祖母の言葉が自分の中で繰り返された。
(自分の心を信じる…。心…。
…心って、…何なんだろう)
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