永遠の命

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「私、もうすぐ永遠の命を手に入れるの」  大粒の雨が窓を叩きつける音が響く教室で、彼女は僕にそう言った。教卓の上に座り、セーラー服のリボンを手で弄びながら、嬉しそうに。 「永遠の命? 」  僕がそう問い掛けると、彼女は「うん」と頷いた。全くこの幼馴染は、いつも突拍子もないことを言うのだ。 彼女は長く美しい髪を遊ばせながら教卓の上から飛び降りると、チョークを取って黒板に『永遠の命』と書いた。 「ゆーくんは、永遠の命って何だと思う? 」  彼女はチョークを置いて振り向くと、今度は僕に問い掛けた。 「不老不死のことかな? 老いることなく、死ぬこともない。永遠の命と呼ぶには相応しいと思うけれど」 「ふうん、不老不死ね」  彼女はまたチョークを手に取って、今度は『不老不死』と黒板に書いた。 「不老不死はね、正解だよ。老いることなく、死ぬこともない、正しく永遠の命。その通りだよ。ゆーくんと私が考えることは一緒だったんだねえ」  ゆーくんすごい、と彼女は短く拍手をして、教卓の横の机に置いてあった自身の鞄を開くと、中から一冊の本を取り出した。彼女は本を開いて、挟んであったしおりを取ると、僕に差し出した。 「正解したゆーくんに景品の贈呈です。あげる。これね、私が作ったの、だから世界にひとつだけなの。大事にしてね」 「景品? ありがとう」  彼女にお礼を言って受け取ったしおりは、厚紙でできたごく普通のものだった。白い厚紙の上に、ボールに戯れている黒猫の切り絵が貼り付けてある。まじまじと観察する僕を尻目に、彼女は窓の側で水浸しになるグラウンドを眺めて言った。 「雨、まだまだ止みそうにないね……。私、もう帰るね。ゆーくん傘持ってないでしょう? 天気予報ではもう少ししたら止むはずだから、このまま待ってるといいよ」 「確かに僕は傘持ってないけど、君は持ってるの? 雨が止むの、待ってたんでしょ? 」 「ぶー。残念、折りたたみ傘は持ってるよ、真の女の子はいつだって用意が良いのさ。ゆーくんがどうしてもと言うなら傘に入れてあげないことはないけれど、今日はだめ。土下座してもだめ」 「けち」  悪態をついた僕を意地の悪い笑顔で押しのけた彼女は、教室の扉の前まで行くと、不意に立ち止まり、僕に背を向けたまま声をもらした。 「ねえ、ゆーくん。それね、そのしおりね、呪いなんだよ。私が永遠の命を手に入れるために必要な。ゆーくんはそれをずっとずっと持ってなきゃいけないの。捨てちゃだめだよ、絶対」  扉を開けて、振り向いた彼女は、永遠の命を手に入れるための、最後の呪文を僕にかけた。 「私のこと、忘れないでね」
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