1人が本棚に入れています
本棚に追加
古賀君に会ってから、あの夢は見ていない。内藤君には「変わっている」というあの会話をもう引き摺り出して来られることはなかった。あるのは業務上の会話だけ。私はそのことに少し安心していた。
「小柳さん」
ある日の帰り道、着替えを済ませて外に出ると、内藤君と偶然にも一緒になった。
「お疲れ様」
そう声をかけると内藤君は少しだけ意外そうな顔をして、横に並んだ。また「変わっている」などと言い出すのかと思ったら今度は違った。
「小柳さん、最近雰囲気が柔らかいですよね、何かあったんですか?」
「何もないよ。ただちょっと変わりたいと思っただけ」
私は素直にそう答えた。
今日は患者さんに頼まれごとをした時、雑談を交えることができた。同僚の冗談に笑うことができた。そんな毎日を積み重ねていくことが、私の周囲との関わり方を変えるきっかけになってくれた。
今となっては「ねぇ、覚えてる?」と、古賀君もしくは他の誰かから問われる夢が何の意味を持っていたのかは分からない。古賀君との八年越しの再会が何の意味を持つのかも分からない。
私はそこまで信心深くはないのだ。それでも、これをきっかけと捉えて、私は明るい方へ明るい方へと進んでいきたいと思った。
「俺、小柳さんのこと、ずっと気になってました。これから、時間が合えばこうやって一緒に帰っちゃダメですか?」
決まりが悪そうにしながらも、そう話す内藤君に、私は優しく微笑んだ。
私はきっとこれから始まる。
最初のコメントを投稿しよう!