1人が本棚に入れています
本棚に追加
「晩飯がまだなら、よかったら一緒に」という古賀君の誘いを受け、私は持っていたスーパーのカゴを戻し、彼の後に続いた。
「まさか小柳に会えるとは思わなかった」
古賀君が迷わず選んだのは、寂れた雰囲気の焼き鳥屋だった。寂れた外観の割には店内は盛況で、会社帰りのサラリーマンで溢れかえっていた。私は、古賀君が注文している横顔をずっと見ていた。
「ねぇ、私と高校の時二人でどっか行ったことあったっけ」
私は古賀君と再会してから抱えていた一つの疑問をようやく切り出した。私の中の数年前の記憶、古賀君と一緒に飲んだ缶コーヒー、その時に話した言葉。
「やっぱり覚えてたよな」
古賀君はそう言って、おしぼりで手を拭いて、またテーブルの上に戻した。彼がおしぼりで顔を拭くようなおじさんになっていなかったことに少し安堵した。
「私、なんで古賀君と二人だったのか、何を話したとかは覚えてなくて」
「俺が失礼なこと言っちゃったんだよ」
古賀君はバツが悪そうに私に顔を向ける。
「なんていうか、小柳、いつも一人だったじゃん? 俺、そのことがなんか気になっててさ」
また、チクリ、と胸がわずかに傷んだ。内藤君から「変わっている」ことを指摘された時のように。
店員が二人分のソフトドリンクを運んで来た。
「だから、言ったんだ。小柳、笑ってって」
私は古賀君と改めて目を合わせた。
テーブルの上で弄んでいたおしぼりが、だらしない形で動きを止めたようにその場にあった。それを見て、私がまともに古賀君と話すのはこれが初めてではないとはっきりと思い出した。
あの頃も私は今、目の前にあるおしぼりにしたように、制服のスカートの裾を弄んでいた。
「小柳、笑って」
高校生の頃の今より華奢な古賀君の声が聞こえた気がした。そして、頻繁に見る夢の中の「ねぇ、覚えてる?」という声が古賀君の声だったのではないかという疑念が私の中に渦巻いていた。
「古賀君はいつも人気者だったよね」
「そんなことないよ。仕事ばかりで今は寂しい独り身だよ」
当時人気者だったことを本人は知っているのだろうか。古賀君はそれくらい周囲の人間に対して分け隔てなく接していた。
そう、まるで内藤君のような。
「タバコ吸ってもいい?」
古賀君は私に許可を取ってからタバコに火をつけ、それを美味しそうに吸った。
「私もいい?」
私も先ほどコンビニから買ってきたばかりのタバコを取り出し、火をつけて一口吸う。喉にイガイガとした感触があって、自分がしばらくタバコを吸っていなかったことを思い出す。
「小柳が吸うのは意外だな」
そう意外そうな顔をする古賀君に私は
「ちょっと嫌なことがあった時とか、たまに」と答える。
最初のコメントを投稿しよう!