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柚一は高校卒業後、地方の大学に進学するため家を出たので、真翔と兄弟として過ごした期間は長くない。それでも、柚一にとって真翔は、期せずしてできた弟だった。
真翔に告白されたのは、大学の卒業旅行も終え、久しぶりに実家に帰った二月のある日のこと。
柚一はリビングのソファで、なんとなくスマホゲームをしていた。学校から帰ってきた真翔に「おー、おかえりー」と言った直後、突然「好きだ」と告白されたのだ。
それまでおとなしい弟だと思っていた。むしろよそよそしいくらいで、自分のことを嫌いなんじゃないかと思うこともあった。だが、うつむいた顔を真っ赤にさせ、肩を震わせている真翔は、弟の顔をしていなかった。
もちろん初めは断るつもりだった。血が繋がっていないとはいえ、兄弟で付き合うなんてありえないと思った。それに柚一の恋愛対象は女性だったのだ。
けれど、想いを言葉にしようと必死になる真翔を見ていると、気持ちがぐらついた。
真翔は言った。友だちのいなかった自分とたくさん遊んでくれて嬉しかったこと。柚一が大学進学のために実家を出ていってから寂しい毎日を過ごしていたこと。寂しさが恋愛感情からくるものだと、この四年間で嫌というほど思い知ったこと。柚一を見ているだけで、訳もなく涙が出てしまうこと――。
真翔の想いを知れば知るほど、柚一の胸は熱くなった。傷つけたくないと思った。
気づけば柚一は、「考えさせてくれ」と答えを保留するような言葉を口にしていた。
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