好きをわすれないで

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***  柚一を慰め、キスをした次の日から、柚一の帰りは目に見えて遅くなった。初めは残業かと思ったが、柚一はいつも残った仕事を自宅に持ち帰ってくる。  前はちょっとでも自分と同じ空間にいたかったのか、テストの採点や資料作成など家でやるようにしていた。  だが、ここ数日は目に見えてそれが無くなった。きっと残った仕事を、職場で片付けてから帰宅しているのだろう。  柚一の行動も、そうしたいと思う理由も、想像に容易かった。  帰宅したとき、汗で表面に膜が張ったような感覚が気持ち悪かった。真翔は浴室に直行し、ぬるめの湯を頭から浴びた。  柚一の下半身に触り、キスをしたのは一週間前のことだ。あのときに触れた熱と感触は、今もなお手に残っている。合わせた唇の柔らかさも、息遣いも、すべて――……  じわりと下半身が疼く。見下ろすと、自身のそこはいつの間にか硬度を増し、首をもたげていた。 「……まじか」  思わず声が出る。浴室に反響した声を、シャワーの音がかき消す。  真翔はためらいがちに、自身のそこに手を伸ばした。血管の浮き出た自身よりも、柚一のそこはひとまわり小ぶりだった。……可愛かった。  記憶を失くす前の自分たちは、きっと自分が抱く側で、柚一が抱かれる側だったのだろう。考えると、しっくりきてしまった自分に戸惑った。  先週目に焼きつけた柚一の裸体を、頭に浮かべる。下半身により熱が溜まるのを感じる。根元から先端を、自身の手でゆっくりと動かしながら包み込むと、電気が走ったみたいに気持ちがよかった。 「くっ……」  今にも果ててしまいそうな欲を、歯を食いしばって耐える。そうやって何度か自身を慰めていると、無意識のうちに腰も前に突き出すみたいにして揺れた。 「ゆっ……い、ち……っ」  名前を呼んだら、もうダメだった。目の前にある絶頂に身をゆだねる。  浴室の壁に放たれた自身の吐き出した精を見つめ、真翔はがっくりと肩を落とした。ほんのわずかな時間で、まさか兄の裸体を思い浮かべて果ててしまうとは。  自分が信じられなかったし、信じたくなかった。だが、柚一のことを考えると、吐精したばかりのそこは再び熱を帯び始めた。  自分は一体どうなってしまったんだろう。これじゃまるで、思春期の高校生みたいだ。  結局そこからもう一度自分で自分を慰め、真翔は罪悪感とともに浴室の壁や床を汚した精液を洗い流した。  シャワーから上がると、柚一が帰ってきているのか、リビングから物音がした。今日は帰りが早いようだ。ヒタヒタとフローリングの床を足の裏で踏みながら、リビングに向かう。キッチンカウンターの中にいる柚一は、こちらに斜め後ろ姿を見せている。  少しなで肩の男をそうやって観察していると、視線を感じたのだろうか。柚一は恐る恐るというように真翔の方を振り返った。
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