モブ男はモテに気づかない(友人視点)

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モブ男はモテに気づかない(友人視点)

 俺はモブ男紺野 平(こんの たいら)の友人の小山 聡(こやま さとし)二十一歳。紺野とは同じ大学に通うおもしろ楽しい事が大好きな男子大学生です☆  昨日紺野からおもしろい話を聞いたので、今日は色々と自分の目で確認しに来ました。  ビシっとどこへ向けてか敬礼する。  昨日大学を急に休んだ紺野が心配になり、バイトが終わってから連絡を入れてみた。紺野は良くも悪くも真面目だ。そんな真面目なやつが唯一とも言える友人の俺に連絡も寄越さないで休むなんて事は今まで一度もなかった事だった。  俺の心配をよそに、スマホから聞こえる紺野の声はめずらしく弾んでいた。  紺野が言うには、なぜかズボンが泥で汚れて(理由は教えてもらえなかった)困っていたら親切な男子高校生に声をかけられ、そのままそいつの家に行った事やそこで食べたお菓子や紅茶が美味しかった事、その高校生がまるで執事みたいだったという事だ。とても幸せで楽しい時間だったらしい。  何それ? 何でそんな事になってんだ?  見ず知らずの男子高校生がいきなり声かけてきて家に誘うとか、普通はない。  知り合いならまだしも全く知らない相手にそんな面倒な事するわけないじゃん? 紺野じゃあるまいし。  絶対何か裏があるに決まってる。  その高校生は朝このバス停前で見かける事が多いと言うから、このお人よしでぼんやりなモブ男である友人の為に俺がどんな感じか見てみましょうかね、という事で冒頭に戻る。 「でさ、小山は今日どうしてこっちまで来たんだ? お前の家からだったら直で行けるだろ?」 「あーねぇ。まぁいいじゃん。今日は紺野と一緒に行こうと思ってさー」  と肩に腕を回すと誰かにぺちりと叩かれた。 「って」  誰かと思えば結構なイケメン高校生君がすぐ傍でこちらを睨んでいた。  徐にポケットから取り出したハンカチで俺が触れてしまった紺野の肩をまるで埃でも払うように払っていた。  嫌味な事をされているのにその動きはどこまでも優雅で――。  もしやこいつが紺野が言ってた執事君?  執事君の表情と行動で何となく理解した。  ははーん。そういう事か。すんげー分かりやすい。  何で紺野はこれに気づかないんだろうな?  紺野と話す嬉しそうな顔の執事君を横目に見ながら執事君に同情していると、中学生くらいのやつが俺たちの順番を抜かした。 「おい……っ」  俺は注意しようと声を掛けようとして紺野に止められた。 「あの子いいんだ」  あの子か。って事は何か理由があるって事だな。  はいはい。紺野が文句ないなら俺も文句なんてないわさ。  ちらりと中学生の方を見ると耳を真っ赤に染めてこちらの様子を窺っているようだった。  ――へ? なんだそりゃ……。  もしかしてあいつも紺野を……?  ちょ、ちょっと待て待て、待って??  我らがモブ男君はいたいけな? 男子中学生とイケメン高校生のふたりも誑し込んじゃってるわけ? 本人きっと分かってないんだろうなー……。  ちらりと紺野を見ると、まだ執事君とのんきにクッキーや紅茶の話をしていて、その表情は今まで見た事もないような幸せに溢れていた。  ――――まぁ、いいか。  どっちが紺野を落とせるのか。はたまたどちらも落とせないのか。  どちらにしても紺野がいいならいいって事さ。  俺だって紺野にはしょっちゅう助けられてるし、返しきれてない借りだってある。もしも紺野が泣くような事があれば黙っていないけど、そうじゃないなら傍観者を決め込むだけだ。  だっておもしろいんだもん♪  俺はモブ男である友人の春の気配に、ひとり口角を上げた。
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