それぞれの想い(中・高生)

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それぞれの想い(中・高生)

 Side 生意気男子中学生  バス停に並んでいるといつもどこからか感じた視線。  イケメン高校生(あいつ)はこっそりとモブ男の事を見ていた。  オレがモブ男に恋をするずっと前から。  モブ男も周りのみんなも何で気づかないのかってくらい切なげに熱い視線を送ってた。  あの雨の日、オレのせいでモブ男のズボンが泥だらけになった時も傘をさしかけたのはあいつだった。  それからモブ男がバスを待っている間ふたりは話すようになった。  最初は周りにいた女子がざわついていたけど、今では誰も気にしていない。『モブ男』イメージがうまく働いているのだろう。  害はない、敵じゃないってね。  お前たちの目は節穴かって思う。自分たちが見たく無いものは絶対に見ようとしない。あんなに分かりやすいのに。  まだ付き合ってはいないみたいだけど、もうオレの入り込む隙なんかないみたいにふたりは親し気だ。  オレがもう少しだけ素直になっていたら何か違っていたのかな……。  オレは何度目かの後悔の溜め息を吐いた。  Side イケメン男子高校生  あの中学生()の存在はずっと前から知っていた。  そしていつの頃からか紺野さん(雨の日の翌日バス停で無事名乗り合えた)の事を好きになっていたのにも気づいていた。  なのにどうしてあんな態度をとってしまうのかは分からなかった。  精神的に幼いから? 恥ずかしい? 天邪鬼? まぁ色々理由はあるのだろうけど、どちらにしても今のままでは紺野さんを渡す事はできない。  紺野さんが彼の事を憎からず思っていたとしても、彼では紺野さんの呪いを解く事はできない。  あのまま紺野さんが自分の価値も知らないまま生きていくのはどうしても我慢がならないのだ。  だから今は、紺野さんの呪いを解く事だけを考えよう。  たとえ紺野さんが彼を選ぶ事になったとしても……俺は紺野さんの幸せを願っている。 *****  今日も遠回りをして紺野さんが(バスを)待つバス停へ向かった。  もう近頃では俺と紺野さんがしゃべっていても、周りの女の子たちも遠巻きに見ているだけでキャーキャーと騒ぐ事はなくなっていた。 相 手がモブ男とされる紺野さんだから俺たちの仲を疑いようがないと思われているのだと思うとイラっとする。紺野さんは紺野平っていう名前の俺の愛する存在()だというのに……。  いつものように紺野さんとしゃべっているとれいの生意気中学生が紺野さんの順番を抜かして行った。  俺は呼びかけた。  紺野さんは友人Aの時のように俺の事を止めたりはしない。  その理由が『信頼』であり、友人Aより近しい存在であるとあなたが思ってくれているというのなら、ものすごく嬉しい。 「ちょっとキミ」  不機嫌そうに振り返るがお構いないしに俺は続けた。 「これ落としたのキミ?山田……」  とハンカチを見せると一瞬眉をひそめたが、すぐに俺の意図が分かったのか、 「オレの名前……香川 涼(かがわ りょう)だから、それオレのじゃない」  と、フルネームを告げた。 「あ、そうなんだね。ごめんね呼び止めちゃって。じゃあね香川くん」  わざとらしく聞き出した名前を大きな声で言い、笑顔で送り出す。  本当は紺野さんの事を誰にも渡したくなんかない。  だけどそれは俺が決めていい話ではないのだ。  紺野さんの心が『モブ男』に囚われているのを解放しようとしているのに、今度は俺が紺野さんの事を囲い込み、縛ってしまってはいけない。  あくまでも選ぶのは紺野さん自身だ。  紺野さんの事を好きなくせにいつまでも動こうとしない香川を同じ舞台に上がらせる為に、俺はあえて敵に塩を送るような真似をして覚悟を見せた。  これで彼は生意気な中学生から香川 涼になった。俺にできるのはここまでだ。  香川、お前の覚悟はどれほどのものだ――――?
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