ラッキーデイ

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ラッキーデイ

 昨夜は彼の事を考え過ぎて眠れなくて――いや、寝てはいたんだけど夢の中で……げふげふ……とにかく寝坊してしまった。  今日は昨夜からの雨で地面がぬかるんでいて気を付けないと滑ってしまいそうだ。足元に気を付けながら気持ち足早に歩く。  急がないといけないが、いつものバス停の方に遠回りする事は止められない。  ほんの少しだけでも姿を見たいのだ。並び歩く傘の合間を縫って視線をやると、いつものように眠たげな彼の姿があった。最悪な気分だったのに彼の姿を見つけ最高の気分になる。傘で顔を隠しこっそりと彼の事を見つめた。  これなら騒がれる事なく彼の事を見ていられる。なんてラッキー。  神様ありがとうございます。  神様にお礼を心の中で言っていると、いつもの生意気な男子中学生が、彼の目の前で雨でぬかるんだ地面に足を取られた。  まるでスローモーションのように身体が傾いていく。  彼は助けようとしてそいつを抱き込み、そのまま滑って下敷きになってしまった。べしゃりと尻餅をつく彼。  ズボンは泥まみれになり跳ねた泥が彼のお気に入りの花柄のシャツまで汚してしまっていた。  『あーあ』という空気が辺りに広がる。  彼のおかげで助かったというのに生意気な男子中学生は「ダサ」という捨て台詞を残してまた彼の順番を抜かした。  流石にこれは……と思ったけど、彼は別段気にした風もなくただ泥で汚れてしまったズボンを見下ろして、困ったなという顔をしただけだった。  周りはというと、明らかに彼は困っているのに誰も助けを申し出る人はいなかった。  なんだかな、と思う。あの人もあの人もあそこの人も彼に助けられているところを見た事がある。だけど、知らん顔だ。  納得がいかず胸がもやつくが、ある事を思いつき心臓が口から飛び出してしまいそうなくらいドキドキしだした。  これは神さまがくれた『チャンス』だと思った。  ああ、なんてラッキーデイ。
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