生意気男子中学生はツン多め

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生意気男子中学生はツン多め

 オレはオレの事が嫌いだ。  自分でも性格が悪いと思う。  でも、昔からこうだったわけじゃない。と、思う。  オレは女顔でおまけに小柄で、女の子のようだと揶揄われる事も多かった。  「可愛い」と頭を撫でられたり、男に告白された事だって一度や二度じゃない。  その度につっかかっていったけど相手にもされなかった。みんな困った顔で愛想笑いを浮かべるだけだ。しつこく訊いて無理矢理聞き出した理由が、女には手は上げられないって事だったから情けなくて悔しくてたまらなかった。  オレは女の子じゃないし、女の子みたいに扱われたいわけじゃない。  だからオレは少しでも男っぽく見られるように乱暴な言葉を使うようにしたし、態度も男らしいと思えるものに変えた。少しでも背が伸びるように牛乳だって嫌って程飲むようにした。  無理でもなんでもそうすれば女の子のようだと揶揄われたりバカにされる事がなくなると思ったからだ。  あの日、オレはいつものように通学通勤ですし詰め状態のバスに揺られていて、何でこうも混んでしまうのか、もう少し早い時間のバスを使えばいいじゃないかと自分の事を棚に上げて考えていた。そんな時、僅かにお尻に違和感を覚えたんだ。  何か硬い物が当たっている。  鞄? くそっもっと当たらないように持てないのかよ? まったく、人の迷惑少しは考えろってのっ。  今ではすっかり馴染みつつある乱暴な言葉で心の中で毒づき、振り返って睨んでやろうとして身体が固まり動けなくなる。  自分の間違いに気がついたのだ。  いくらなんでもこんな事は初めてで、自分の身に起こっている事が信じられなくて頭が真っ白になった。  首にかかる生暖かい息。密着する大きな身体。  鞄だと思っていたのは男の――――。  総合して考えるにオレは後ろに立つ男に痴漢されている。 「……っ!?」  その事に気づくともうダメだった。身体がカタカタと震えだし、指先は冷たく吊革を握った手がまるで凍ってしまったかのように動かなくなる。  くそっ……くそ――っ! 何でオレがこんな目に合わなきゃいけないんだっ!  いくら小さくたって、いくら女顔だってオレは男だ!  こんなに頑張ってるのにまだ女の子扱いされてしまうのか……っ?!  女の子が同じ目にあっていいと言っているわけじゃないけど、男のオレにこんな事――どうかしてる!  心はマグマのように怒りで燃え滾っているのに身体はどこまでも冷たくて全身が凍ってしまったかのようにほんの少しですら動かす事ができなかった。  いくら男らしくと思って言葉遣いや態度を変えたって振り返って文句を言う事もできやしない。ただ黙って震える事しかできない自分が情けなかった。  学校まではまだ遠い。その間ずっとこの変態行為を受け続けなくてはいけないのかと恐怖と気持ち悪さに吐き気が込み上げてくる。  身体に纏わりつく嫌な感触。ねっとりとしていて気持ち悪い。  オレの耳には痴漢野郎の気持ち悪い息遣いだけがやけに大きく聞こえていた。  永遠とも思えた時間がある人物によってあっけなく終わりを告げた。 「あんまふざけた事してると、社会的に……コロしますよ?」  オレとオレの後ろに立つ男にだけ聞こえるくらいの声だった。内容の割になんの特徴もない平凡な声。だから尚更言葉の意味だけが際立った。  その男の出現ですぐに痴漢野郎はオレから身体を離し、次の停留所で逃げるように降りて行った。  しかるべき所に突き出さなきゃとかそんな事はどうでもよかった。  痴漢行為が終わっただけでオレはよかったんだ。  男のオレが痴漢行為を受けていた事を周囲に知られる事の方が死ぬほど嫌だった。  その事を分かってか分からずか助けてくれた人もそれ以上騒ぐ事はしなかった。  痴漢野郎がバスを降りて全身に血の気が段々と戻ってきてもさっきの恐怖と恥ずかしさとで顔をあげる事ができなかった。  助けてくれた人は今も少しだけ空間を空けてオレの事を守るように立ってくれている。顔を上げる事はできないがせめてお礼だけでも言わなくては、と思うのにただ口が音を持たずにぱくぱくと動くだけ。  オレの中に情けない気持ちが広がっていく。  バスが揺れて僅かに身体が触れればすぐさま離れ、「悪い」と小さな声で謝罪してくれた。その度にオレの心は小さく震えた。その度にモヤモヤとした嫌な気持ちが溶けていくようだった。  悪いなんて事ひとつもないのに。あの痴漢野郎とは全然違う。  もっと……もっとオレに触れて欲しい。  抱きしめて嫌な感触を上書きして欲しい――――。  バスを降りるまでの間、傍に立つ顔も知らない人の気配を感じながらオレは、そんな事を考えていた。  それが恋とは気づかず、その人への温かなソワソワする想いは自分を助けてくれたヒーローへの憧れからくるものだとその時は思っていた。
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