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②
「ちょっちょっと!? キミ、大丈夫っ??」
そのまま隠しもせず彼は俺に近づいて来る。
下着は穿いているはずなのにヘタにシャツで隠されていて、何も穿いていないように見えてしまう。
いあいあ、あなたの方が大丈夫??? そんな無防備な……っ!
狼の前に飛び出ちゃ食べられちゃっても文句言えませんよっ??
動く度にちらりちらりと見える彼の太もも……。あ……鼻血が――。
俺があまりにも下半身をガン見しているものだから、彼の方も恥ずかしくなったのか顔を真っ赤にさせてバスタオルを厳重に腰に巻きなおしていた。
「なんか……ごめん……」
「い、いえ……」
おかしな空気になってしまったけれど、このままだと本当に彼が風邪をひいてしまう。
俺はとりあえず鼻血が垂れてこないように手で押さえ、彼を風呂場へと連れて行った。
使い方を軽く説明した後、俺は急いでトイレへと駆け込んだ。
数分の後。
鼻血のついてしまった制服を着替え、すぐにリビングに戻ると部屋の環境を整えるべくエアコンを調節した。折角風呂で温まった彼が寒い思いをしてはいけない。
さぁ次はお湯を沸かそう。
彼は紅茶、コーヒーどちらが好みだろうか?
ちょうど部屋も温まりケトルがピーと鳴き始めた頃、俺の服を着た彼が現れた。
少し大きいのか袖と裾を折ってある。心なしか頬もほんのりと色づいていて色気のようなものまで纏っているように見えた。エロ可愛い……。
あまりにも可愛くてそのまま黙って見つめてしまった。
再び漂いそうになるおかしな空気。
「…………」
――――いや、大丈夫。
さっき出し……げふげふ……。とにかく大丈夫。俺は今賢者だ。
変に思われないようにひとつ咳払いをし、何事もなかったかのように続けた。
「――少し大きかったですね。すみません。俺の服しかお貸しできる物がなくて……」
「あ、これキミのなんだね。まぁ……そうか。ありがとう」
恥じらうように笑う彼。ああ天使。まじ天使……。
天使は食べ物に入りますか? 天使は食べても怒られませんか?
「――さぁ、こちらへどうぞ?」
自分の変態じみた考えを悟られてしまわないようにあくまでも紳士的に振舞う。さながら主に仕える執事のように、リビングのソファーに座るよう優雅にエスコートした。
俺とした事がいつまでも彼を立たせていたなんて。
テーブルに並んだ沢山のケーキやクッキー、マカロンなど色とりどりのお菓子に驚き、感嘆の声をあげる彼。
良かった。喜んでもらえてるみたいだ。
チョコを持っていた事からも甘い物が苦手ではないと予想していたが、もし違っていたら大変な事になるところだった。
今日彼を家に誘ったのは彼との距離を少しでも縮められたらという下心もあるのだが、あのバレンタインの日に貰ったチョコのお礼も兼ねていた。彼は覚えていないだろうから言いはしないが。
「コーヒーと紅茶どちらがいいですか?」
「――え……、そんな、いい、のに……」
彼は遠慮がちにそう言うと、目を伏せた。
さっきから少しだけ彼の様子がおかしい。
普通の遠慮とはどこか違うような僅かに感じる違和感。
お菓子を食べるのに飲み物を用意する事は普通の事だ。何も特別な事なんかじゃない。それなのにコーヒーか紅茶のどちらがいいか尋ねると、どう答えたらいいのか本当に分からないで戸惑っているように見えた。
どちらか選べないのではなくて、飲み物まで用意してもらっていいのだろうか? というような戸惑い。
親切心であっても恋心であっても、まるで自分に向けられるはずがないと考えているように感じる。
――どうして?
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