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『小春…』
「分かってる!言われなくても…分かってる。向いていない」
トイレの水で顔を濡らす。
あの程度じゃ汗ひとつも出ないけど、凛と藍斗を見ていると、少し熱くなった。
だけど本当にもう、私は偽るのが苦手だ。
『向いてないな』
「怪しまれてると思うか?」
『まぁ…な。いくら右手の刀の扱いが不慣れだからって、身体はいつも通り動くんだ。キレッキレだったぞ』
妖蛭はケラケラと笑っている。
くそ。うまくいかない。
「だいたいさっきのが下等種だって?あの鳴海って女、ふざけている。下等種はもっと弱いはずだ」
『あぁ、そうだな。あれは人に成りすませるくらいの力がある妖魔のレベルだな』
「下等種じゃないから、右手だと心許くて、反射で身体がうごいてしまった」
『必死に2人を守りながら立ち回ってたな。情が移るのが早くないか?』
「違う。仮想だとしても、目に前で妖魔にやられそうな奴がいたら助ける。それは…普通のことだから」
その普通が今回普通じゃないんだけど。
怖がるふりをしなきゃいけなかった。だけど、いやいや、これ下等種じゃないだろと思ったら、鳴海に対しての不信感しかなくて……
あと、2人の動きが面白かった。
必死に思考しながら動いていると分かった。
45度回せと言ったが、ズレもなく凛は刀を回して振り下ろした。動き回る妖魔に対しての、繊細なコントロールは、上出来だ。
それに藍斗。
よく分からないけど、最後に指示はしてないのに刀を放り投げた。
刀は綺麗な軌道のまま、最高の角度で妖魔の首に刺さるところだった。
まぁ力加減やスピードが足りなくて、上手くはいかなかったが。
あれは…センスなのか
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