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俺は驚いてその場で固まることしかできなかった。バケモノを見るかのように、必死に地を這って逃げようとした。
俺だって処理班の奴らと同じだ。
異様なオーラを纏う兎の面の人に対して、酷い反応をした。礼も言わずに…
会ったらちゃんとあの時は助けてくれてありがとうと、伝えなきゃ。
「奏多。奏多もアービターに入ろうとしてる?」
隣で俯いていた亜子。
奏多の服の裾を掴みそう言った。
「……悩み中だ。俺だってお前達を守りたい。だけど、剣技だって藍斗の方が得意だし、運動神経だって俺は人並みだ。この馬鹿みたいに頭のおかしな動きが出来るわけじゃない」
俺は運動神経だけはいい。
といってもさっき動けずにいたんだ。説得力はないよな。
奏多は心配そうにする亜子を優しい顔で覗き込んでいる。奏多はアービターに入っちゃダメだよ。
優しすぎるから
それに奏多は、人になりすました妖魔と出会った事がない。アレは……本当に身の毛もよだつような存在なんだよ。
中身は妖魔だけど、見た目は人だから。
アレを斬るには覚悟がいる。人を斬っているような錯覚に陥るだろう。優しい奏多には絶対できない。俺にだって…出来るか怪しい。
俺は……自分の母親になりすました妖魔に殺されかけた。
あの日のことは忘れることはないだろう。
何も変わらず、いつも通りの優しくて、ちゃんと悪いことも叱ってもくれる母親。
いつから中身が妖魔だったかなんて分からない。
あいつらは人間になりたいのか、そう振る舞おうとする。
俺は母親の見た目の妖魔と、何日も共に過ごしていた。思い返せば食事が喉を通らないほどに、気持ちが悪い出来事だった。
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