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妖魔のいる世界
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「おい!亜子!お前もアービターに入るつもりか?」
男は先を歩く女に声をかける。
女はそんな男を振り返りもせずに声を出す。
「藍斗もでしょ?あんたを一人で入団なんてさせたら心配でしょ?私もついて行くの」
ヒラリと桜が舞う。
またこの季節がやってきた。
「お前さ、妖魔と戦うんだぞ?わかってんのか?」
「女だからって言いたいの?」
「あぁそうさ。アービターに女が入るなんて聞いたことない」
「あんたが聞いたことないだけでしょ?なんでもあんたの狭い世界に当てはめないで」
女はキッと男を睨む。
その二人の様子を見かねた男が間に入った。
「お前らさ、喧嘩してる時間あるわけ?アービターの入団は誰でもできるもんじゃねーの。ここ何年も入団者が限られている。亜子にそう言ってるけど、お前だって入団できるとは限らないだろ」
男の冷静な言葉で二人は黙る。
はぁ…ため息は春の風に流れて消えて行く。
わかってるよ。と悔しそうに、藍斗と呼ばれた男は元来た道を戻った。
そして後からきた男も、言いづらそうに女に告げる。
「亜子、俺も辞めた方がいいと思うぞ」
「……奏多までそんなこと言うの?」
もう知らない。そう女は言い、藍斗とは違う道へ歩いて行ってしまった。
「誰のために言ってると思ったんだよ」
そんな言葉は誰にも届かなかった。
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