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「うん。そうだね。ごめんね」
全てを守れなくてごめん。そうみんなが私を抱きしめた。
妖蛭は……お母様の元にいけたのだろうか。
魂が消えてしまったけど、二人はまた一緒になれたのだろうか。
寂しくはないだろうか。
物心がついた頃から妖蛭がいた。
私の中で悪態を吐きガミガミ小言も多いし五月蝿いし……でもずっと私を見守ってくれていた。
だから今何も声が聞こえないことが不安で仕方がない。
普通の人はきっとこんな感じなのだろう。
自分が心の中で思ったことに対して返事なんか返ってこない。
でも私はそれが普通だったから。
「すごく寂しい」
うるさいと思っていたあの妖蛭が居なくなってしまったことが、とても寂しいんだ。
よしよしとみんなに頭を撫でられる。
私の傷は綺麗さっぱり治っている。
むしろ死にかけているのは藍斗だった。
「お前は何でこんなにボロボロなんだ」
「いや…妖畏とやったあと、下等種のところに放り込まれて…ははは」
生き延びたはいいものの、少ししんどくなってきたと私に倒れかかってくる。
「せやしデカい声出すなゆうたやろ!お前がへばったら小春が生き延びたのに意味ないやろ!死ぬなよ絶対」
「わかってるよ。死なないよ…でも痛い」
腹を押さえている。
服を破いて藍斗の傷口にあてる。
「今はどうなってるんだ?紫苑は?妖畏は?」
もうそれどころではなくてちゃんと終わったのかも分からないんだよ。
藍斗は痛いけど大丈夫だと笑ったから手当てをすれば耐えてくれるだろう。
周りの人はバタバタと走り回っている。
「紫苑は妖魔の残党を処理したらアフラレイルに戻るって。それまではまだここに居るって言ってた。話せるなら話す?」
「……あぁ、そうだな」
濡れた頬を袖で拭う。
嘆くのは全て終わらせたあとだ。
心がスースーしてしまう。妖蛭がいないとこんな風になってしまうのか。
「夜虎、藍斗をみてて?凛、私についてきて」
馬鹿な妖蛭のおかげで身体の調子がいい。生まれて初めてくらい身体が軽い。何なんだよ。多少しんどくても……お前がいた方がいいのに。
考えれば涙が出そうになるかは、頭を振って今は考えないようにする。
「小春、大丈夫なんか?さっきまで死にかけてたけど」
「……うん、大丈夫」
形見になってしまうのか分からないが、妖蛭が何千年も使っていた刀だけが私の手に残っていた。
これはわたしの愛刀に変わりはない。
「下等種は誰が倒した?」
「俺と夜虎さんと竜玄さんと、あとは紫苑が連れてきたアービターのやつら」
ほぼ俺と夜虎さんだと凛は笑った。
2人とも怪我はなくてよかった。
「まだ頭が追いつかない」
「大丈夫や、それみんなや」
「そうか。妖畏は……ちゃんと消えたよな?」
「うん。小春が灰に変えたで」
「……わかった」
妖魔王が死んだ。
ここの妖魔はどうなるのだろうな。
そして何やら疲れた顔をした紫苑がそこに居た。
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