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身体から妖蛭様の気配がなくなったと言い、今まで妖蛭様がどれだけ小春様の心の支えだったのかを知った。
あの時の小春様はみていられなかったから。
そして今も相変わらず小春様は美しく、一滴の血も流さずに妖魔を斬る。
「さぁ、帰ろうか」
そう微笑む彼女を藍斗は幸せそうに見つめているんだ。
「おい、藍斗。お前さてはつまみ食いしたな?」
「な、なんでわかるの!」
「あれ程先に食うなと言ったろ」
騒がしい声で我に返った。
小春様は春斗を片手に抱えて、左手で藍斗の顔を鷲掴みしている。うん……今日もとても平和だな。
腕の中の春斗が泣き出した。
お腹が空いたのか、漏らしたか、まだ言葉を話せない春斗は必死に泣いて何かを訴えている。
命が繋がれるというのはなんて神秘的なものなんだろう。
「春斗、お前の泣き虫は藍斗のがうつったのか?いいか?男たるものな……」
なにやら言葉もわからない春斗に必死に小春様は力説をしてそして最後に「そろそろ泣き止め」と笑えば、小春様の笑顔に釣られて春斗もきゃっきゃと笑った。
藍斗と小春様はそれが自然だったかのように惹かれあっていたな。
以前ほど混沌としていない世界。
小春様も常に刀を持っていることは無くなったように思う。
妖蛭様の形見である小春様の愛刀は、今日も部屋の壁に立てかけて……
『馬鹿もん!小僧!お前が邪魔で春斗が見えないだろう!退け』
どこからともなく聞こえてくる声。
その声に、あ!俺?と言いながら藍斗は刀の前から退く。
馴染みのあるその声に小春様は返事をする。
「あまり春斗の前で汚い言葉を使うな馬鹿め!口が悪くなったらどうするんだ!」
『お前が育ててる時点で終わりだ!それに俺は口は悪くない!!』
そこに姿があれば取っ組み合いが始まってしまいそうな言い合い。
この言い合いも慣れたものだ。
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