妖は綺麗に笑う

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あの日、小春様の中から妖蛭様は消えた。 何も感じないと泣き続けていた。 唯一の家族を失い途方に暮れる小春様に、家族になろうと言ったのは藍斗だった。 そして数年アルフが落ち着くまで刀を握って妖魔を斬り、その後ようやく2人は夫婦になった。 その時くらいだろうか。 2人の夫婦の門出を祝いに、僕と凛と2人で、小春様と藍斗の元を訪ねて祝っていたら、どこからともなく啜り泣く声がした。 小春様もみんながそのどこからともなく聞こえてくる声に戸惑った。 まるで妖蛭様がそこに居るみたいだったから。 声も話し方も妖蛭様で、こう言うんだ。 『目が覚めたら娘が結婚している。意味がわからん。頭が追いつかん。何なんだもう!』 そう啜り泣きながら悪態を吐くのは、紛れもなく妖蛭様だった。 全員、えーーーーーーっと声を上げたのは今となればいい思い出だ。 妖蛭様曰く、小春様を生かそうと、妖魔としての全ての力を使い、小春様の傷を治した。その反動で妖蛭様の魂は消えた。 だから小春様の中から妖蛭様が消えたのは事実なんだが…… 妖蛭様は生前、とその場にあったの2つに魂を分けて生きていた。 小春様の中の妖蛭様は消えてしまったが、愛刀に残った妖蛭様の魂は消えずにいたのだ。 でも全ての力を使い、妖蛭様は長い眠りについたようで、目覚めるのに時間がかかってしまったらしい。 そして目覚めたタイミングで小春様と藍斗が夫婦になったから、こうやって啜り泣きながら文句を言っていたんだ。  妖蛭様の魂がそこにあるとわかり、小春様は久しぶりに涙を流していた。遅いんだよ馬鹿と言いながら、ずっと共に過ごした刀を抱き締めていた。 愛刀にいる妖蛭様は、刀から色々なものを見ているのだろう。刀の前に藍斗が立っていれば、自分の孫にあたる春斗が見えないからと怒っていた。 妖蛭様は孫が見たいとずっと言っていたらしいから、かなりの溺愛っぷりを発揮している。 「肉持ってきたで!!!」 そこに凛が戻ってきた。大量の肉を持って。
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